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所論緒論 地方自治体は財政調整基金の使い道を再考せよ

日刊建設工業新聞 2020年06月30日 20面

所論諸論/熊谷弘志/地方自治体は財政調整基金の使い道を再考せよ

熊谷弘志氏

熊谷弘志氏

新型コロナウイルス対応で地方の財政難が課題となっている。財源不足は過去最大だったリーマン危機後の18兆円を超える恐れがあるという。財源不足は財政調整基金でカバーし、休業協力金の給付や家賃補助、検査の拡充など感染抑止と経済の両立へ欠かせないといわれる施策を実施するという。

このような施策は、2011年の東日本大震災における危機前の状態に戻すための支援と考え方が類似しており、投資効果が疑問視される。被害が小さければ、被害を受けたところを短期間で元の状態に戻すことは、悪影響を小さくすることにつながる。しかしながら、インフラ基盤が極めて大きな打撃を受けた中で、インフラ基盤の再復興と元の状態に戻す支援では、壊れたものが修理されるものの、結果として投資家の債務が膨らむだけで新たな投資効果が見込めない。

コロナ不況で落ち込んでいる企業業績とインバウンド(訪日外国人旅行者)消費の失速を回復することは簡単ではなく、短期的な損失補償をしても、長期的な経済活性化にはつながらない。行政による損失補填は、税収の落ち込みにつながるだけである。つまり、財政調整基金を使って投資効果が生まれる支援方法がないのかを真剣に考える必要がある。

熊本県天草市で、新型コロナ不況でブリやマダイ、エビが売れなくなった加工業者や養殖業者と、客が来なくなって従業員雇用に頭を抱えていたホテルが協業して、魚の冷凍弁当を販売するビジネスを立ち上げた。これは、「余剰」を新たな事業に展開した異業者協業として話題となっている。このケースは、たまたま、これらの困っていた起業家が地元の観光協会の会合で巡り合ったことで生まれたビジネスではあり、天草市という新鮮でおいしい魚のイメージを持った町であったから付加価値が生まれた事例である。

このような、異業種による新たなビジネス創出を行った事例として有名なものに、大震災に先立つ05年にカトリーナ台風で壊滅的な打撃を受けた米ルイジアナ州ニューオーリンズ市が見事な復興を成し遂げた例がある。この復興は危機発生前の状態に戻すための支援ではなく、新規投資を活性化したことによる復興である。

ニューオーリンズはジャズの発祥地として知られ、多くのミュージックフェスティバルが開催される音楽の都でもある。また、全米でも有数の観光都市であり、バーが軒を連ねるバーボン・ストリート、アンティーク街のロイヤルストリート、北米最古の大聖堂であるセントルイスカテドラル、ジャクソンスクエア等の観光名所が植民地時代の町並みを残すフレンチクオーターに位置している。

これらの市が持つ特徴をこれまでよりももっと生かした「復興のビジョン」を明確化し、ビジネスコミュニティー、パブリックセクター(行政)、そしてNPOがそれぞれの専門領域を超えて連携することによって、地元の投資家だけでなく、外からの投資家を引き付けた。たとえ融資対象となりづらい起業であっても、それが復興のビジョンに沿った投資であれば資金調達をサポートし、専門家によるビジネスコンサルティングを提供することで、その投資が失敗しないように支援を行ったことが、成功の要因であるといわれる。

経済を回復するためには、投資が不可欠である。事業損失を補填するためではなく、投資を増やすために財政調整基金を活用して、資金調達支援を行ったり、コンサルティングサービスを行ったりと、触媒機能として活用することで、内部の投資だけでなく、外部からの投資を引き付けて、民間投資額を増やすことを検討する必要があるのではないだろうか。

地方自治体は、首長が社長となって運営している組織である。自治体には財政調整基金を使って事業損失を穴埋めする以外に選択肢がないわけではない。コロナ感染に関わる所与の前提条件を踏まえ、自分たちの町の復興のビジョンを明確化し、事業損失の保証よりも、投資支援を求める事業者には投資を促進する支援を行うことで、経済活性化を促進するような地方行政政策を選択してはどうだろうか?

〈クラウンエイジェンツ・ジャパンPPP事業ディビジョンシニア・アドバイザー〉

Syoron-syoron 20141105 Increase GDP through new PPP Initiative

The G20 was held from 20 to 21 September in Cairns.  Japanese mass media did little attention to this meeting; however it is noteworthy that “Global Infrastructure Initiative (GII)”, which is a private investment policy, was agreed internationally.  In this meeting, each member countries brought economic vitalization strategies to achieve “additional 2 percent growth of the world economy over 5 years”, which was agreed in Sydney February this year; the total number of the strategies was 900.  According to the International Monetary Fund (IMF), if these strategies are to be implemented, 1.8% of global economic growth could be achieved. We can recognize the importance of the GII from the fact that 27% of these growth strategies (240+) were infrastructure related strategies.

 

On the other hand, the past Galapagosized Japanese PPPs, including PFI projects, Shijoka-test (market testing), and Shitei-kanri (designated manager assignment), etc., were methods that would reduce the GDP.  With using private know-how, government saved investment amount and reduced labor costs by switching the civil service to private operators; if the life cycle operation cost is reduced without adding any value, GDP will be reduced accordingly.  According to the official figures, from 1999 to 2013, 418 PFI project were financially closed; the total amount of public works of \4.2 trillion and they could create VFM of about ¥ 800 billion; however the styles of the PFI projects were mostly financed lease style BTO and BOT scheme, therefore, public debt was increased about \4.2 trillion and GDP was reduced in the amount of ¥ 800 billion.

 

Japan introduced PFI 1999 in this way, and promoted 14 years especially to build new public facilities through installment payment method.  As the result, the PFI applicable new public facilities had almost disappeared.  In 2011, PFI law was amended and concession method was introduced, and allowed to private companies to be delegated to do the operation of existing infrastructures.  Mechanism of this concession is similar to existing Japanese PFI; while public entities keep the ownership of public facilities, private companies operate and obtain the permission of user fee collection, the profit of the operation of PFI project is obtained from the reduction of the labor costs by switching the operation by civil servants to private operators.  In other words, it can lead the further reduction of Japanese GDP.  These Japanese Galapagosized PPP procedures, are against the Sydney agreement. We are now in a turning point that Japanese PPP strategies can be changed to international PPP approach such as GII to increase the GDP.

 

GII is an initiative to support linkage between infrastructure business and investors, by establishing information sharing platform, and integrating a database of infrastructure projects in each country.  In addition, GII is a policy to change the finance of the public infrastructure investment from public debt to private investment; this policy has a mechanism to raise GDP without increasing the debt of the government, by creating public infrastructure projects invested by private sector with a reasonable profitability.

 

It is important to promote international development accordance with the concept of GII, using private investment and assigned in the social infrastructure development using Japanese technologies in the future global market.  In the countries of emerging economies, global infrastructure development demand is about 3.7 trillion dollars each year, however the actual infrastructure investment has only 2.7 trillion dollars annually; that means the lack of investment is $ 1 trillion each year.  This investment shortfall is required to be covered by private investment domestically and internationally.  Such international private investment can be covered by Japanese investors with Japanese government support.

 

In November G20, Japan also has to submit proposals to raise global GDP, with a promotion of the private investment. For example, with co-financing and grant aid of multilateral development banks such as JBIC, ADB, and JICA, and loans of private financial institutions, long-term investment and loans from GPIF and insurance companies, to activate the infrastructure investment in developing countries; which can create new mechanism to promote global private investment.

所論緒論 20141105 新たな官民連携でGDPを増やす

去る9月20-21日にケアンズでG20が開催された。わが国のマスコミは、この会合に殆ど注目しなかったが、世界的な公共投資の政策であるグローバル・インフラストラクチャー・イニシアチブ」(GII)がこの会合で合意されたことは注目に値する。今回のG20では、今年2月にシドニーでのG20で決めた「世界経済を新たに2%成長させる目標の達成」に向けて、各国が合計900件の成長戦略を持ち寄った。国際通貨基金(IMF)によれば、これらを実施すれば、1.8%の経済成長の押上にめどが着くという。これらの成長戦略の27%(240件以上)は、インフラ関係のものであったことからも、上記のGIIの合意の重要性がわかる。

一方、これまでの日本のPFI事業、市場化テスト、指定管理者制度等は、ガラパゴス化した日本特有の官民連携でありGDPを減らしてしまう手法であった。民間ノウハウを活用して、投資額を削減したり、公務員を民間事業者の雇用者に切り替えることで人件費を削減したりする方法で、事業コストをライフサイクルで削減するためGDPが減ってしまうのである。2013年9月末までに、418件のPFI事業の推進によって約4.2兆円の公共事業が実施され、約8,000億円のVFMが生み出されたといわるが、殆どがBTO方式又は、割賦払いのBOT方式であるため、約4.2兆円の公的債務が増加し、約8,000億円のGDPを減らしてしまったということもできる。

1999年に導入されたPFIは、このように、新しいハコモノ施設を割賦手法で整備したため、14年間の推進の結果、適用できる施設がほとんど無くなってしまった。2011年に導入されたコンセッションは、新しい施設だけでなく、既に出来上がっているインフラ施設の運営まで民間に委託しようとするものである。このコンセッションの仕組みは、公共施設の所有権を公的主体が有したまま、利用料金の徴収権と施設の運営権を民間企業に移すという点では、今までの指定管理者制度とPFIを組み合わせた仕組みと同じであり、公務員による運営を民間事業者の雇用者に切り替えることで人件費の削減を求めている。つまり、さらなるGDPの削減につながりかねない。このようなGDPを縮小させるような政策立案は、シドニー合意に反する。このようなガラパゴス化した日本特有の官民連携手法を転換し、GDPを増加させる国際標準のPPPを活用するGIIに我が国もシフトすることが必要である。

GIIとは、インフラ事業と投資家を結びつける情報共有プラットフォームの構築や、各国のインフラ事業のデータベースを統合してひとつのデータベースを構築することで、投資家をインフラPPP事業と結びつける支援を行う政策である。また、GIIは、これまで行政が公債で負担していた公共インフラ投資を民間投資に切り替える政策であり、この政策によって、行政の債務を増やすことなく、事業性のある民間による公共インフラ事業を新たに構築することによってGDPを引き上げる仕組みである。

このGIIの仕組みに我が国も賛同し、民間投資を活用して、日本が国際的に強みを持ち、将来グローバル市場として成長が見込まれる分野の社会インフラを整備し、国際展開を促進することが重要である。新興国のインフラ整備分野は、毎年約3.7兆ドルの世界需要があるのに対して、実際のインフラ投資は毎年2.7兆ドルしかなく、そのため毎年1兆ドルの投資不足が生じているという。この投資不足分を新興国国内外の民間投資で賄うことが求められている。我が国の民間投資促進戦略を適用する分野はここにある。

11月のG20では、我が国もGDPを引き上げるための、民間投資を促進する提案を提示する必要がある。例えば、JBIC・JICA・ADB等の国際開発金融機関の協調融資や無償援助に、民間金融機関の融資や、GPIFや保険会社からの長期投融資を組み合わせて、途上国のインフラ投資を活性化する民間投資を促進する新たな仕組みを検討する提案等を我が国から提示できるはずだ。

ガラパゴス化した日本のコンセッション方式 その3 ガラパゴス化からの脱出

これまで、PFIやコンセッションという名称を使ってローンやアフェルマージュを行ってきた日本型のガラパゴス化した官民連携のモデルについて説明してきた。

しかしながら、あえて、ガラパゴス化しようとして、このような形態になってしまった訳ではない。

PFIの導入時には、諸外国と同様に、PFIのうたい文句であった「民間ノウハウと民間資金の活用」を売り込み文句とした。しかしながら、海外では、民間が自ら借り入れ、民間投資することが前提であった。つまり、日本での売り込み文句は、「民間ノウハウと民間投資の活用」とすべきであったのだ。

投資でも融資でもいいというのであれば、民間にとってよりリスクの小さない融資になってしまったというのは、おかしな話ではないが、このような誤解が、本来なら国の再建の拡大を阻止する為に使えたPFIを公的債務の拡大促進に活用させてしまったのは悲劇である。

一方で、経済成長は著しいが、インフラ整備の為の政府予算が十分にない新興国や途上国においては、必要なインフラを整備するにあたって必要なのは民間投資である。2014年8月16日付けの日経新聞の9ページ[アジアBiz]には、比インフラ王 止まらぬ事業欲(最大企業PLDT会長)というタイトルで、フィリピン長距離電話の会長で香港の投資会社First PacificのCEOであるマヌエル・V・パンギリナン氏の記事が載っている。

投資である以上、事業がうまく行かなければ、投資額は損失と相殺されて回収が出来なくなる。日本の民間資金の活用は、あくまでも確実に回収できる融資を意味しており、投資を前提にしている訳ではない。

ガラパゴス化した日本のコンセッション方式を本来の姿に戻すためには、民間資金の活用を民間投資の活用にする必要がある。また、PFI法の中に組み込まれた、コンセッッションの担保も、不動産を担保にするのではなく、事業が生みだすキャッシュフローを担保にしたノンリコースのプロジェクトファイナンスを活用すべきである。

ガラパゴス化した日本のコンセッション方式 その2

さて、前回は日本のコンセッション方式がガラパゴス化している原因はPFI法にあると述べた。

俗にいうPFI法、正式名称は「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」は平成11年7月30日に施行した。

海外のコンセッションやPPP手法とは、基本的には、民間投資をさせることによって、民間の責任で施設を整備する為のものであり、発注者は投資を行わない手法である。民間に投資させ、施設を民間に所有させるが、その運営期間に於ける運営権を民間に与えるという仕組みである。

ところが、日本のPFI法には、投資という概念は出てこない。あくまでも「民間資金等の活用」という概念である。従来のように公共の資金を使って施設整備をする代りに、民間の資金は使って公共施設を整備するという程度の意味合いである。つまり、公共が施設を所有する為に民間資金を使うのだから、マイカーのローンと同様に、その債務は公共のものであり民間投資ではないのである。

このように、もともと、導入したときから、海外とは異なった概念で導入されたPFI手法が最後に改正されたのは、平成25年6月12日であり、施行後10階目の改正である。

14年間で10回、つまり、1.4年に1回改正されてきたことになる。最初からガラパゴス化されて導入された手法であるから、改正される毎に、さらに特殊な日本のしくみが法律によって組み込まれ、きわめてガラパゴス化した法律になっている。

具体的に、そのガラパゴス化を少し紹介してみよう。

民間が施設を所有する手法をBOT方式、公共が施設を所有する方式をBTO方式と呼ぶが、この法律の仕組みから、どちらも、その債務は公共がもつことになり、民間投資ではない。PFIのBOT手法で有名だった近江八幡市病院は、施設のファイナンスリースであったことから、形の上では、民間の所有になっていたものの、実態は、リース資産の債務として病院のバランスシードで認識していた。

もちろん本場の英国にも、このような公共側が事業の債務を持っている案件もあるが、半分程度は、民間投資による民間債務であり、日本のようにほぼ100%が公共の債務によるPFI事業は特殊なケースである。

日本のPFI事業は、海外のモデルに比べて、事業のモニタリングが出来ていないとよく言われる。それは、公共が施設整備費の債務を持っていることから、べつにモニタリングをしてもしなくても、モニタリングの結果が良くても悪くても、施設整備費の減額が発生することはないからである。つまり、モニタリングをする必要がない仕組みになっているのである。

投資をさせて、債務を投資者である民間に持たせた上で、その施設の機能のモニタリング結果に応じて支払いを変動させる仕組みを導入しない限りにおいては民間へのリスク移転が出来ないことになる。

さて、ここまでで、既に日本のPFIがPFI法によって、ガラパゴス化されていることが分かると思うが、この法律に、コンセッションという「民間投資に対して運営権を与える仕組み」を平成23年の改訂で組み込んでしまったので、ガラパゴス化もかなり極みに近づいている。このガラパゴス化したコンセッションでは、民間投資は促進できない。

この背景を簡単にWikipediaを使って確認してみよう。

英語のWikipediaでConcessionを引くと次のような説明が出てくる。

公共サービスのコンセッションでは、政府と、与えられた期間における公共施設に対する運営、維持管理、投資の権利が与えられるものであること。

これに対して、アフェルマージュと言う形態の場合は、リースとマネジメントの契約であり、投資責任は公共にある。

Public services such as water supply may be operated as a concession. In the case of a public service concession, a private company enters into an agreement with the government to have the exclusive right to operate, maintain and carry out investment in a public utility (such as a water privatisation) for a given number of years.

Other forms of contracts between public and private entities, namely lease contract and management contract (in the water sector often called by the French term affermage), are closely related but differ from a concession in the rights of the operator and its remuneration. A lease gives a company the right to operate and maintain a public utility, but investment remains the responsibility of the public.

つまり、日本で導入したコンセッションとは、アフェルマージュのことであり、民間による投資が前提となっていないのである。

今、新興国で求められているのは、新興国政府が負えない投資リスクを民間に取ってもらう為に、民間投資によって施設を整備する方法である。このような民間投資を望んでいる新興国に、日本式のPFIを前提としたコンセッションを持ち込もうとしても、需要と供給がマッチしない。

次は、このような状況の中においてどのようにすれば良いのかを、世界的な投資による経済活性化の観点から述べることにする。

ガラパゴス化した日本のコンセッション方式

ここのところ、PFIは下火であるが、コンセッション方式という言葉がたびたび新聞に登場する。本日2014年6月26日の日経新聞朝刊(総合2)にも、コンセッション方式で空港を整備することが記事になった。
「三井不・三菱地所が検討」関空・痛みの運営権応札 という記事である。
このコンセッション方式が、いわずもがな他の国内の業界と同様に、ガラパゴス化しており、Global競争の世界から隔離されている。海外で一般的になりつつあるコンセッション方式に方向修正しなければ案件が活性化しない可能性がある。
私も、2000年にロンドンから帰国して依頼、昨年の5月までは、国内のPFI PPP、コンセッション事業に関与していたが、これ以上国内市場に関与することは辞めた。なぜなら、日本のPFI PPP、コンセッションの市場は、Global競争に必要なノウハウが活用できないガラパゴス化された特殊市場になっているからである。

今日から少し筒時間をみつけて、日本のコンセッション方式がどのように国際的な常識からずれた形で運用され様としているのかについて説明しよう。

一般的に日本経済新聞は、事実を報道するため、信憑性が高い。その日経新聞が上記の記事と合わせて説明している「コンセッション方式の解説」は次のようなものである。

▽国や地方自治体が空港や上下水道といった公共施設を所有したまま、運営する権利を民間事業者に与えるしくみ。運営権を得た企業は利用料金を設定・徴収し、収入を事業運営に充てる。経営効率化や新事業の創出で生み出した収益は出資者への配当に回すことができる。国や自治体の債務が膨らむなか、インフラの維持管理や更新に充てられる財源は限られており、注目を集めている。

確かにその通りである。事実を簡潔にうまくまとめている。

▽…海外で一般的な民営化の手法だが、国内では2011年のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)法改正や昨年6月の民活空港運営法の成立で可能になった。空港分野だけでなく、大阪市や浜松市が上下水道、愛知県は有料道路での実施に意欲を示している。これまで国や自治体に限られていた公共施設の運営権が民間に開放されるため、新たな事業機会として企業の関心も高まっている。

ここまでくると、ちょっと待てとなる。海外で一般的な民営化手法であると、海外のコンセッション手法と日本のコンセッション手法の違いが存在しないような表現となっている。日経の記事には、海外情報が絡んでくると最近必ずしも事実を正確に伝えていない記事が増えつつある。その1つがPFI PPP、コンセッションの記事についてである。

▽…政府が6月に閣議決定した新しい成長戦略では、16年度末までの3年間を集中強化期間と位置付け、計2兆~3兆円のコンセッションを実施する目標を掲げた。重点分野は空港と上下水道、有料道路の計19件で、実施に向けた手続きが今後動き出しそうだ。

戦略があることは知っているが、集中強化期間と位置づけ目標を立てさえすれば案件が動き出すというものではない。ちょっと無理がある。

日本のコンセッション方式が海外と異なるのには理由がある。日本には、特殊な法律があるからである。ただし、日本にコンセッション法という法律がある訳ではない。該当する法は、俗にいうPFI法。民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律である。この法律は、内閣府民間資金等活用事業推進室(PFI推進室)のホームページからhttp://www8.cao.go.jp/pfi/houritu.html確認できる。

まず、この法律に目を通してもらいたい。

次回は、この法律に記載しているガラパゴス化された要因について説明しよう。

割賦払いのPFIを民間投資型PFIに転換せよ

11月5日にPHP政策力アップ講座の一環で、「公共施設マネジメントにPFIを活用する手法」と題して地方自治体議員向けのセミナーを開催した。

講義の後で1時間ほどの時間をかけて、神奈川大学の南学特任教授および参加された自治体議員の皆さんと質疑応答をしていく中で、いままで、私が当然だと思っていたことが、いかに理解されていないのか、間違って理解されているのかがよくわかった。

以下、1999年に導入され、最後の法改正が2011年に行われたPFI法に関する課題について整理した.

1. PFIとは呼べない日本版PFI事業

これまでずっと言い続けているように、今の日本のPFIは、英国のPFIの実態を理解せずに、短期的なキャッシュフローの改善を民間の資金を活用して割賦払いしているにすぎない。しかも、活用した組織の財政を悪化させている。

1.1 英国におけるPFIの導入

英国では、メジャー政権の1992年に正式にPFIがスタートしたといわれるが、民間事業者がコンセッション契約に基づいて投資を行い利用者からの料金回収で融資を返済するモデルであり、東南アジアで導入されたBOT手法に近いものであった。

このように、PFI手法は、もともと、民間投資によって公的な施設を民間に整備・所有させ、当該サービスを利用する利用者からサービス料金を徴収するものであり、割賦払いの要素はない。

1.2 公的債務を拡大させないサービス購入契約のPFI

日本では、割賦払いが前提のPFI事業が多く、割賦であるにもかかわらずサービス購入型と命名したことが、PFI手法を適正に理解することを阻み、内閣府のガイドラインにおいても混乱を招いている。

利用者料金の発生しない公共施設にPFI手法が適用されているのは、利用者からの料金収入によって事業が成り立つのであるから、公共が施設を所有するのをやめ、民間に公共施設を所有させ、その施設の利用サービスを公共が利用者となって購入すれば同様の仕組みが成り立つという考え方に基づいていると思われる。

公共は、投資をせず、民間のサービスを購入するだけであるため、サービスの受領後から支払いまでの間に、利用したサービスに対する債務が生じるだけである。ところが、割賦支払いだと、施設整備費が債務になってしまう。

わかりやすくする為に、割引率や、支払い金利を0と想定した上で、例えば150億円の施設整備投資が必要な公共事業があり、完成後30年間に150億円の運営費が必要な事業があったと想定してみよう。

割賦払いで契約を締結すると、施設が完成し所有権が公共に移転した点で、施設整備費の支払い債務が発生する。150億円の債務である。

これに対して、サービス購入型のPFI事業を導入すれば、毎年10億円を30年間払い続けることになる。1年後には、割賦であれば、10億円を支払い、債務が140億円となるが、サービス購入型であれば、10億円の債務に対して10億円を支払う為に、債務は0である。もちろん、金利の支払いが生じるため10億円で済む訳ではないが、自治体の債務が割賦払いによってふくれあがることがわかるはずである。

2 サービス購入を割賦払いと誤解しPFI法案を起草

英国でPFIのガイドラインであるSoPC(Standardisation of PFI Contract :PFI契約の標準化)が、公表されたのは1999年7月であり、日本のPFI法が施行されたのも1999年7月である。これは、日本のPFI法が、英国のサービス購入型のPFIの実態を理解することなく割賦手法をPFIという名前で、間違えて導入したことを意味する。

ちなみに、アジア諸国におけるPPPの制度が整ったのは2002年以降であり、すでに英国やオーストラリアのPFI/PPPガイドラインが数多く公表されていたことから、PFI/PPPとは、パフォーマンスに連動したサービス購入契約によって公共施設を整備する仕組みがPPPであるという常識に基づいて制度設計が行われている。日本は、PFIの実態を理解できないまま、割賦であると早合点したのである。PFIの本質的な仕組みの誤解である。

3 英国でのPFI導入のメリット

3.1 コスト増加の防止と工期の厳守がメリット

英国でPFI導入のメリットを聞くと、建設コストの増加抑制と工期遵守が必ず第1にあげられる。PFIが導入されるまでは、建設工事における追加コストの発生と工期の延長が頻繁に発生することが問題になっていた。

施設の購入ではなく、定額のサービス購入費用によって、完成した施設のサービスを購入する形態に契約を変更すると、工期遅延やコスト増等の建設関連リスクを民間に移転することができるようになる。ところが、日本では一式無増減の契約金額と、工期遵守が浸透していたため、このメリットはなかった。その為、施設整備をサービス購入に転換したことがPFI手法の本質であるという点が理解できなかったのではないかと考えられる。

3.2 分離可能な契約の一括発注と不可分なサービスの包括契約の違い

分離可能な契約を一括発注することと、施設に関連するサービスを包括的に提供するサービスを提供することは同じではない。

出来上がった施設が適切に利用できる状態である時に、金額的には施設を整備した投資額と運営の費用を足し合わせて平準化した額が支払われるが、契約内容は、施設の利用可能性とサービスのパフォーマンスと、従量料金を組み合わせた支払いであり、発注者の支払いを施設整備費や、サービス料金として分解することは出来ない仕組みである。これをユニタリーペイメントによる支払いと呼ぶ。

PFI契約を会計処理をする場合、会計の透明性を維持するため、分離可能な契約は分離した上で、それぞれの契約毎に支払いも分離しなければならないというルールがある。これを契約分離の原則と呼ふ。日本のBTO契約は英国ではPFI契約として認められない。それは施設を整備して割賦払いする契約と、出来上がった施設の維持管理運営を委託する契約は明らかに分離可能であるからである。

4 債権担保の融資契約に基づくプロジェクトファイナンス

事業が適切に運営されれば、事業から収益が生まれ、融資が回収できるが、事業者のサービスパフォーマンスが低下すれば、支払いが減額され、事業から利益が生まれなくなる。事業者には支払いを減額されないように品質を維持しようとするインセンティブがある。これは、サービス品質を低下させない為の発注者と事業者間の仕組みである。

金融期間は事業者と融資契約を締結して融資するが、公共とは関係がない。公共と契約関係がないので、事業が悪化した時に、金融機関が出来ることは事業者に経営改善要求だけである。事業者と発注者の契約に口出しすることは出来ない。そして、事業者が健全な運営にもどることができなければ発注者から契約解除され事業は破綻してしまう。

発注者と事業者間には、サービス料金の支払いを減額する仕組みがあるだけにとどまらず、運営が不適切な場合には発注者は契約を解除する権利がある。(発注者が契約を守らない場合には事業者に契約を破棄する権利があるが、ここではそれについては触れないことにする。)

金融機関に取ってみれば、契約を解除されると、事業が破綻し、融資額が回収不能となり、精算業務をスタートしなくてはならない。一方発注者にしてみても、事業は継続する必要があるため、事業者との契約を解除した場合は、新しい事業者と契約を締結し直さなければならない。手間もかかるしコストもかかるので発注者はこの方法はなるべくさけたい。発注者、金融機関ともに契約を継続したいことにおいて利害は一致している。

そこで、このような発注者と金融機関に共通した利害にもとづいて、発注者と金融機関が事業契約、融資契約の締結と同時に直接契約を締結する。発注者は、直接契約により、事業契約を解除する前に、金融機関に事業介入することを認め、事業者を交換する等による業務改善を行う。この時、事業者、発注者、金融機関のだれにも債権債務は生じない。

直接契約は、事業者と発注者との間の事業を継続する権利を担保債権として金融機関が融資するための契約である。従って、融資とは直接的な関係はなく、発注者が事業者にコンセッションを与えることは債務にはならない。プロジェクトファイナンスとは、このような事業価値を債権として金融機関が融資を行う契約である。

5 大福帳会計の悲劇

大福帳の会計では、割賦払いとサービス料金の支払いを区別することが出来ない。なぜならば、債務の概念がないからである。債務は別途、長期債務負担行為等で確認するだけである。

わかりやすい例で言うと、大福帳会計で、コピーマシンをレンタルすることと、ファイナンスリースでコピーマシンを購入することに違いはない。レンタルは、レンタル期間が終わる毎に請求書が作成され、その請求書によって生じた債務を支払えば済む一方で、ファイナンスリースは、機械の所有権が名目上事業者に残っていたとしても機械の購入契約であり、機械代金の全額が契約締結とともに購入者の債務となる。

割賦、ファイナンスリース、オペレーティングリースの違いがわからない大福帳会計であったことが、割賦によって債務をふくれあがらせることを認めた原因であったのではないかと考えられる。

6 財政健全化に反するPFI

多くのBTO案件がそうであるように、PFI手法をBTO方式で行うことは、割賦払いを確定し、債務を拡大することになる。短期的に民間資金調達によってキャッシュフローを改善することは出来るが、公共の債務をふくれあがらせる為財政を悪化させてしまう。

施設というものは一旦更新すると後は劣化するだけであることから、なぜ、政府が施設を所有したいと考えているのかよく理解できないが、民間に施設を所有させるか、公共がどうしても施設を所有しておきたいのであれば、長期的に民間事業者にリースした施設を活用してサービス提供する方法をとることも出来る。

いままで400件4.25兆円もの割賦払いPFIを推進してきた。内訳を検証した訳ではないが、施設設備投資を運営が50:50と想定すると、2.12兆円は、PFIを導入したことによって公的債務が膨らんだことになる。ハコモノ案件が多いと言われることから、拡大した公的債務は、2.5兆円あたとすれば、500兆円のGDPに対して0.5%の債務拡大をPFI手法を使って行ったことになる。

7 物権を債権としたわが国のPFI事業のコンセッション

内閣府がPFI推進委員会で公表した「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関するPT研究報告」によるとコンセッション方式を物権としてしまったため、官はコンセッション権が売れたとしても、民間はコンセッション権を運営権として資産計上し、減価償却で30年にわたってその運営権をコスト化して30年後に資産を償却し終わることになっている。もちろん、これは、民間事業者にとっては、確実にコンセッション権をコスト化できる手法であるので便利な手法だ。

しかしながら、このような物権にしたことによって、官は受け取ったキャッシュを「繰延受取運営権対価」として処理しなければならなくなる。つまり、その分を債務として抱え込むことになる。これは明らかに、財政健全化に反するものである。

8 ルールさえ変えれば財政改善に活用可能

地方自治体は、分権改革により、自主責任で行政経営を行っていかなければならない。数多くの公共施設や社会インフラが老朽化しており、その更新の為に、既にGDPの200%を超えている公的債務はこれ以上増やせるものではない。

民間に施設を持たせる形で民間投資を引き出すのであれば、対象となる施設についても限定する必要があるかもしれない。しかしながら、世界中でPPPを活用して、いかにして政府の債務を拡大させることなく公共施設や社会インフラを整備していくのかを競争している環境の中にわが国もあることを忘れてはならない。日本ではPFI手法という名称を使いながら、割賦払いで施設を整備することしか出来ないことは恥ずかしいことであり、財政を悪化させる無駄遣いであるとも言えよう。

PFI手法を導入していない自治体が、まだ、90%以上あるという。ある意味で、これらの自治体は賢明である。割賦や、物権担保による既存のPFIの仕組みの活用では、債務が拡大し財政悪化に繋がるからである。

割賦払いのPFIは明らかに誤りである。過ちては則ち改むるに憚ること勿れという。

この問題を単なる勘違いで済ませることなく、メディアや有識者の見識が問われる国家的な課題であると認識し、早急に改善することは全ての納税者の要望のはずである。

11月5日に地方自治体議員向けのPFIセミナーを開催します。

自治体は、地方分権改革によって自らの財政運営を適切に管理しなければならない義務を背負いました。今後間違ったPFI手法の活用をしないように、首長だけでなく地方自治体の議員がちゃんと目を光らせる必要があります。

安倍政権でPFIを活用した公共投資が促進されようとしていますが、これまで日本で導入されてきた割賦払いのPFI手法は本来のPFI手法とは大きくかけ離れたものです。GDPの200%にまで公的債務が膨らんでいる現状においては、これ以上さらに公的債務を増やす割賦払いPFIの締結を認めることを促進することは、財政健全化に反する政策にほかなりません。つまり、総務省の税制健全化の方針と内閣府のPFIの促進によって結果的に生じる公的債務の拡大は整合性がとれていないのです。

このセミナーでは、以下のようなスケジュールで財政再建に役立つPFI手法とはどのようなものなのかについて、地方自治体の議員を対象にご説明する予定です。

主 催 : PHP研究所

講 師 : 熊谷弘志事務所代表  熊谷弘志
<ナビゲーター> 南 学・神奈川大学特任教授

テーマ : 公共施設マネジメントにPFIを活用する手法

進 行 : 開会・講師紹介(5分)
南教授によるナビゲーション(10分程度)
熊谷先生のレクチャー(80〜90分程度)
南教授の補足等(20分程度)
参加者との質疑(40〜50分程度)

詳細は、PHP研究所にお問い合わせください。03-3239-6222

“武雄市図書館の検証”についてのバトルを通して浮かび上がった課題

図書館総合展 武雄市図書館を検証する の参加者

パネリストにいま話題の武雄市の樋渡市長、トーク上手な慶応大学の糸賀教授、ちょっと尖ったTSUTAYAの高橋プロジェクトリーダーを招いて、コーディネーターは立命館大学の湯浅教授がレフリーをしたハラハラドキドキのバトルであった。

このフォーラムは、かなりの数の立ち見もでて、非常に盛況なものであった。話題の政治家、トークの上手な大学教授、尖った民間事業者のバトルは、テレビ中継してもいいくらいの面白さであった。参加できなかった人の為に、このバトルの内容を紹介しよう。

一言で言うと、数字はロジカルに解釈して使わないと説得力がなくなってしまうことがよくわかる例であった。

まず、湯浅教授が半年間のデータを簡単に紹介した上で、市長に開館後の図書館についてのコメントを求めた。

市長コメント

市長は、ヘビーユーザーからの批判があることは認めたものの、開館から半年たった時点において年間図書館利用者目標数であった50万人を半年でクリアーしたこと(52万人が来館)に対してプロジェクトを自画自賛した。

糸賀講義

これに対して、糸賀教授がパワーポイントを活用して、他の図書館との違いを示しながら武雄市図書館の調査報告を行った。

① これまでの図書館の物差しでは、はかれない図書館であり、集客力をもつ新しい公共空間を生み出したことに対して評価した、また、スタッフがいきいきと働いている図書館を見れてよかったと言う賛辞が送られた。

② ただし、来館者数は3.2倍、貸し出し数が1.6倍: 来館者の伸びに比べて、貸し出し数はその半分しかのびなかった。お客さんは集まったが、図書館として成功したと言えるのかと言う厳しい評価であった。

③ 武雄市図書館内での資料利用恐々は図書館資料が2割(伊万里は約58%)、書店資料が2割(伊万里は0%)、持ち込み資料利用者も2割(10%以下)と図書館資料の利用割合が非常に低いことが指摘された。

④ 図書館と言うよりは、ブックカフェ、マガジンカフェという位置づけではないかと評価した。そして、図書館の使える本屋と言う位置づけをした雑誌があったことを紹介した。

⑤ Tポイントに公平性が無いので地域通貨の利用を提案した。

⑥ 書棚の近くに読書のスペースが無いこと、学生の学習スペースになっている場所があること。地域資料が少ないこと等の批判をした。

⑦ 資料分類方法として武雄市独自のものを使っており、NDC分類をしていない点についての批判(分類の一部がだぶっている等の体系的になっていないことについての批判)、この点はほかの図書館の例を多く引き出して、一番長い時間を使って説明した。

⑧ 来年春の市長選を前提として継続できるモデルなのか、ツタヤの売り上げを人件費にまわすモデルに継続性はあるのかと鋭く突っ込み、加えて図書館サービスの要求水準が曖昧であることを批判した。

⑨ 一方で、CCCがレンタルイショップのメージを変え、ブランド力を高めることが出来るのであれば、本のある公共空間がもっと増えていく可能性がある。民間のノウハウをうまく活用できているモデルであるとして評価した。

⑩ 行政サービスの継続性、Tポイントの公平性、業務の効率性が課題として残っていることを指摘して締めくくった。

政治の為の図書館が使われていると言う指摘や、これまで図書館界が作り上げてきたNDC分類に対抗するツタヤ分類の体系的な不備等をついて、バトルが開始された。

樋渡市長の反論

この施設は指定管理者制度を活用したものであり、議会の承認を得た案件であるので、来年の選挙戦のことを取り上げておもしろおかしく批判するのはルール違反だと反論した部分は、なるほどと感じられた。

ただし、それ以外の入館者数に対して貸し出し数が少ないことについての言い訳や、ツタヤを選択した言い訳(この点は、糸賀教授が批判した訳ではないのでなぜ説明したのかは不明であるが)等、聞いていて納得できるとは言えない部分が多かった。

高橋プロジェクトリーダーのコメント

自分たちでつくった分類を否定された高橋氏ではあるが、特に反論はありません。ただ言いたいのは「武雄市図書館は利用者の為の図書館なんです。」とバトルに参加するのをやめたのかと思っていたら、やはり、ほかの図書館と比較されたことに対しては強く反論していた。

この市民価値について樋渡市長がフォローして、武雄市図書館は提供者目線の図書館ではなく、ユーザー目線の図書館であることを強調した。

雑誌について

武雄市図書館には雑誌が600タイトルあるといわれるが、図書館には30タイトル程度しかおいていない。確かに、最新の雑誌は図書館で読めるがバックナンバーが無い。図書館に雑誌があるというのは、バックナンバーも合わせた形であることが重要であるため、図書館の雑誌のタイトル数をのばすべきであると言う糸賀教授のコメントはもっともなものであった。糸賀教授がマガジンカフェと命名した理由がよくわかった。

多賀城市の図書館とCCCの連携

多賀城市の市会議員により、駅前開発の中に、CCCと連携した図書館が検討されていることが説明された。これを引き受けて図書館を通した町づくりの話が樋渡市長から示された。

北海道の雄武町(おうむちょう)の図書館

雄武町での市民が参画した取り組みについての説明をしたが、市長とCCCが内容を決めた図書館と対局にある図書館として説明しているような印象を受けた。

高橋氏が考える図書館の望ましいモデルと糸賀教授への攻撃

ひな形になるようなモデルは無く、それぞれの自治体ごとに適切な図書館を作り上げていくべきだというコメントの後、糸賀教授は細かい点を指摘しているが、大局的なコメントをしてもらいたいと糸賀教授に対して皮肉っぽく要求した。

糸賀教授の逆襲

糸賀教授は、この皮肉をTポイントは武雄のT、多賀城のTで 、Tポイントを使えば良いのだという糸賀節のジョークでかわした後に、大局的なコメントして「官は市場が成功しない分野にしかサービス提供できないものとみられてきたが、武雄の例では市場が成立している分野と官が連携できる分野として新たなモデルとしてとらえることが出来る。」とコメントした。高橋氏の皮肉に対して、糸賀教授は「余計なお世話かもしれないが、TSUTAYAの映像と音楽のレンタル部分は見直した方がいいんじゃないの?」と返し、本当のフィジカルなバトルが始まるのではないかという緊張感が一瞬走った。

地域資料が十分に整備されていないこと

地域資料が整備されないことに対しては、地域資料の整備の優先順位が高くないからであるという糸賀教授のコメントについては、市長も高橋氏も合意し、緊張感が若干和らいだ。ほっとした反面、時間も終わりに近づいているしこれでもう終わりかと少し残念でもあった。

糸賀教授の締めの言葉

継続性、公平性、効率性が重要であるが、この新しいモデルには集客性が必要なモデルであろうと締めた。

高橋氏の締めの言葉

「それは、われわれに公平性が無いと言う意味ですか?」とバトルの再開を要求した。沈黙が数秒続き、バトルの再開かと再度緊張感が走ったが、

「CCCは、集客性が高いところと組む訳ではない。そうではなく、市民価値をどうするのかと言うことが大切だと考えている。したがって、その考え方が共有できる自治体とでなければCCCは組まないと明言した。武雄は今後進化する。日々修正しているので、温泉に入るついでに、ぜひ、武雄市図書館に来てもらいたい。」と締めた。

市長の締めの言葉

政治からしく、糸賀先生は場を盛り上げる為に、あえて批判したのでしょう。これからも、武雄市図書館は良くなり続けていきますよと丸くおさめた。

総括

提示された数字を客観的にみると、集客が倍であるのに、貸し出しはその半分しかのびていないのは、その利用形態から明らかである。そのため、形態をかえない限りは、今後武雄市図書館の貸し出しがのびることは期待できない。

これだけの数字が出ているのだから、糸賀教授のように、これは新しいモデルであると言うところからスタートすれば良いはずである。それを、今後図書館利用が伸びていくんだとした市長の言葉には説得性が無かった。どうも市長の方が、意図が教授よりも既存の図書館の概念にとらわれているようである。

また、高橋氏の自分たちにブレは無い。市民価値に基づいて望ましい図書館をつくるだけだと言う言葉は、利用者の利用形態から考えて、顧客が求める望ましいTSUTAYAをつくるんだと言っているように聞こえてしまう点が残念であった。これは、利用者の定義がなされていないため、たまたま今回集まってきた利用者のことをさしているように思われるからであり、また、武雄市の図書館のミッションやビジョンが明確に示されていないことも大きな問題である。市長とCCCがつくった図書館であり、雄武町のようなミッションやビジョン作りから初めてつくられた図書館ではないと言う点は、糸賀教授から定義された今後の図書館のあり方についての課題ととらえてよいのではないだろうか。

今回の対戦のみどころは高橋氏の糸賀教授への攻撃であったが、糸賀教授にうまくジョークでかわされた上に、逆襲されてしまった。

判定

内容からして、「市長&ツタヤチーム」対「教授」のバトルとなり、教授の勝ちであった。ただ、今回のバトルトークの中で、糸賀教授が指定管理者制度は、図書館界を活性化させる為に必要なプロセスであったというコメントを出しており、糸賀教授を守護神としてあがめていた図書館界に大きな波紋が広がる可能性がある。

 

所論緒論 スマートシティ−構想の位置づけを見直せ

10月28日付の日刊建設工業新聞の所論緒論に掲載しました。

欧州の戦略的インターネットPPP構想に習ってスマートシティ構想の位置づけを見直せ

最近スマートシティーという言葉をしばしば目にする。この背景には、増え続ける世界人口とエネルギー消費増加があり、それに伴い発生する二酸化炭素や大気汚染物質のコントロールの必要性がある。国連の世界都市化予測では、増加する人口は都市人口を増やし、2050年には世界の都市人口の割合が全人口の7割になるという。このように増え続ける人口の大部分が住む都市をコントロールするためにスマートシティ構想は重要である。しかも、この市場は2010〜2030年の間に累計で4,000兆円規模に達すると算定される巨大市場だ。

欧州委員会はこの市場を活用して欧州の経済を発展させるべく、インターネットを活用した官民連携を最重要戦略として位置づけている。

わが国にとっても、状況は同様であるが、わが国はICTを活用した街づくりに焦点が当たりすぎており、インターネットの国家的戦略の位置づけが見えない。実際に、スマートシティ事業を見ると、複数の特定事業者チーム間でデファクト基準の競争が行われているように見える。まるでかつての電化製品の価格競争のようだ。しかも、政府は自治体や企業に提案させるだけで国の役割が見えない。

欧州では、標準化されていない技術に対し企業同士が投資しあうことは無駄な投資に繋がるため奨励しない。代りに、官民が連携してオープンなフォーラム標準の構築を促進している。プログラムの推進、能力開発やインフラ構築の支援等も官民連携で進めている。

この未来のインターネットを利用した官民連携のフォーラム標準構築の為のプログラムが、FI PPP(Future Internet PPP)と呼ばれるものである。スマートシティは、この中の一つの実証実験として位置づけられ、欧州全体で連携をとりながら開発を進めている。FI PPPでは、インターネット活用の開発を以下の4分野に分けて2015年までの包括的な開発を行っている。2012年度末でフェーズ1が終わり、現在はフェーズ2の「能力開発」、「実証実験の更なるトライアル」の段階だ。

<フェーズ1の概要>

1)CONCORDプロジェクトによるプログラムの推進支援

2)INFINITYプロジェクトによるサーチエンジンXiPiの開発や、能力開発及びプロジェクトのインフラ構築支援

3)次の7分野に焦点を当てた実証実験

①交通、配送、農産物の3つに焦点を当てたFINEST、Smartagrifood、FIspaceの3プロジェクト

②個人の移動に焦点を当て白タク利用まで検討しているInstant Mobolityプロジェクト、

③社会連携したテレビ、モバイル都市サービス、ビデオゲームに焦点を当てたFI-CONTENTプロジェクト

④スマートシティと公共警備に焦点を当てたSafeCity、OUTSMARTの2プロジェクト

⑤スマートエネルギーに焦点を当てたFINSENY、FINESCEの2プロジェクト

⑥製造業に焦点を当てたFITMANプロジェクト

⑦医療に焦点を当てたFI-STARプロジェクト

4)インターネットの中核プラットフォームを設計・開発・実装するFI-WAREプロジェクト(NECも参加)

ところが、わが国では、総務省のICTを活用した街づくりの検討会において、FI PPPを「欧州におけるICTを活用した街づくりに関する取組事例」として紹介しており、フォーラム標準構築プログラムと位置づけていない。

わが国のIT競争力は世界経済フォーラムの調査によると世界144カ国・地域の中で21位と昨年度よりも順位を下げており、中でもITの活用度は、企業部門は世界2位と順位をあげているのに、政府部門が27位と順位を下げており政府が足を引っ張っている。

PPPは、官と民の役割分担を最適化するために、官が民の意見をくみ上げながら枠組みを構築し、戦略的に作業を進めていくしくみである。国際競争力がのびない原因が政府にあると言われないように、国は戦略的なインターネットPPPを促進し、スマートシティをその中に組み込んで適切に官民連携を進めていく必要がある。