所論緒論 地方自治体は財政調整基金の使い道を再考せよ

所論緒論 地方自治体は財政調整基金の使い道を再考せよ

日刊建設工業新聞 2020年06月30日 20面

所論諸論/熊谷弘志/地方自治体は財政調整基金の使い道を再考せよ

熊谷弘志氏

熊谷弘志氏

新型コロナウイルス対応で地方の財政難が課題となっている。財源不足は過去最大だったリーマン危機後の18兆円を超える恐れがあるという。財源不足は財政調整基金でカバーし、休業協力金の給付や家賃補助、検査の拡充など感染抑止と経済の両立へ欠かせないといわれる施策を実施するという。

このような施策は、2011年の東日本大震災における危機前の状態に戻すための支援と考え方が類似しており、投資効果が疑問視される。被害が小さければ、被害を受けたところを短期間で元の状態に戻すことは、悪影響を小さくすることにつながる。しかしながら、インフラ基盤が極めて大きな打撃を受けた中で、インフラ基盤の再復興と元の状態に戻す支援では、壊れたものが修理されるものの、結果として投資家の債務が膨らむだけで新たな投資効果が見込めない。

コロナ不況で落ち込んでいる企業業績とインバウンド(訪日外国人旅行者)消費の失速を回復することは簡単ではなく、短期的な損失補償をしても、長期的な経済活性化にはつながらない。行政による損失補填は、税収の落ち込みにつながるだけである。つまり、財政調整基金を使って投資効果が生まれる支援方法がないのかを真剣に考える必要がある。

熊本県天草市で、新型コロナ不況でブリやマダイ、エビが売れなくなった加工業者や養殖業者と、客が来なくなって従業員雇用に頭を抱えていたホテルが協業して、魚の冷凍弁当を販売するビジネスを立ち上げた。これは、「余剰」を新たな事業に展開した異業者協業として話題となっている。このケースは、たまたま、これらの困っていた起業家が地元の観光協会の会合で巡り合ったことで生まれたビジネスではあり、天草市という新鮮でおいしい魚のイメージを持った町であったから付加価値が生まれた事例である。

このような、異業種による新たなビジネス創出を行った事例として有名なものに、大震災に先立つ05年にカトリーナ台風で壊滅的な打撃を受けた米ルイジアナ州ニューオーリンズ市が見事な復興を成し遂げた例がある。この復興は危機発生前の状態に戻すための支援ではなく、新規投資を活性化したことによる復興である。

ニューオーリンズはジャズの発祥地として知られ、多くのミュージックフェスティバルが開催される音楽の都でもある。また、全米でも有数の観光都市であり、バーが軒を連ねるバーボン・ストリート、アンティーク街のロイヤルストリート、北米最古の大聖堂であるセントルイスカテドラル、ジャクソンスクエア等の観光名所が植民地時代の町並みを残すフレンチクオーターに位置している。

これらの市が持つ特徴をこれまでよりももっと生かした「復興のビジョン」を明確化し、ビジネスコミュニティー、パブリックセクター(行政)、そしてNPOがそれぞれの専門領域を超えて連携することによって、地元の投資家だけでなく、外からの投資家を引き付けた。たとえ融資対象となりづらい起業であっても、それが復興のビジョンに沿った投資であれば資金調達をサポートし、専門家によるビジネスコンサルティングを提供することで、その投資が失敗しないように支援を行ったことが、成功の要因であるといわれる。

経済を回復するためには、投資が不可欠である。事業損失を補填するためではなく、投資を増やすために財政調整基金を活用して、資金調達支援を行ったり、コンサルティングサービスを行ったりと、触媒機能として活用することで、内部の投資だけでなく、外部からの投資を引き付けて、民間投資額を増やすことを検討する必要があるのではないだろうか。

地方自治体は、首長が社長となって運営している組織である。自治体には財政調整基金を使って事業損失を穴埋めする以外に選択肢がないわけではない。コロナ感染に関わる所与の前提条件を踏まえ、自分たちの町の復興のビジョンを明確化し、事業損失の保証よりも、投資支援を求める事業者には投資を促進する支援を行うことで、経済活性化を促進するような地方行政政策を選択してはどうだろうか?

〈クラウンエイジェンツ・ジャパンPPP事業ディビジョンシニア・アドバイザー〉

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