“武雄市図書館の検証”についてのバトルを通して浮かび上がった課題

“武雄市図書館の検証”についてのバトルを通して浮かび上がった課題

図書館総合展 武雄市図書館を検証する の参加者

パネリストにいま話題の武雄市の樋渡市長、トーク上手な慶応大学の糸賀教授、ちょっと尖ったTSUTAYAの高橋プロジェクトリーダーを招いて、コーディネーターは立命館大学の湯浅教授がレフリーをしたハラハラドキドキのバトルであった。

このフォーラムは、かなりの数の立ち見もでて、非常に盛況なものであった。話題の政治家、トークの上手な大学教授、尖った民間事業者のバトルは、テレビ中継してもいいくらいの面白さであった。参加できなかった人の為に、このバトルの内容を紹介しよう。

一言で言うと、数字はロジカルに解釈して使わないと説得力がなくなってしまうことがよくわかる例であった。

まず、湯浅教授が半年間のデータを簡単に紹介した上で、市長に開館後の図書館についてのコメントを求めた。

市長コメント

市長は、ヘビーユーザーからの批判があることは認めたものの、開館から半年たった時点において年間図書館利用者目標数であった50万人を半年でクリアーしたこと(52万人が来館)に対してプロジェクトを自画自賛した。

糸賀講義

これに対して、糸賀教授がパワーポイントを活用して、他の図書館との違いを示しながら武雄市図書館の調査報告を行った。

① これまでの図書館の物差しでは、はかれない図書館であり、集客力をもつ新しい公共空間を生み出したことに対して評価した、また、スタッフがいきいきと働いている図書館を見れてよかったと言う賛辞が送られた。

② ただし、来館者数は3.2倍、貸し出し数が1.6倍: 来館者の伸びに比べて、貸し出し数はその半分しかのびなかった。お客さんは集まったが、図書館として成功したと言えるのかと言う厳しい評価であった。

③ 武雄市図書館内での資料利用恐々は図書館資料が2割(伊万里は約58%)、書店資料が2割(伊万里は0%)、持ち込み資料利用者も2割(10%以下)と図書館資料の利用割合が非常に低いことが指摘された。

④ 図書館と言うよりは、ブックカフェ、マガジンカフェという位置づけではないかと評価した。そして、図書館の使える本屋と言う位置づけをした雑誌があったことを紹介した。

⑤ Tポイントに公平性が無いので地域通貨の利用を提案した。

⑥ 書棚の近くに読書のスペースが無いこと、学生の学習スペースになっている場所があること。地域資料が少ないこと等の批判をした。

⑦ 資料分類方法として武雄市独自のものを使っており、NDC分類をしていない点についての批判(分類の一部がだぶっている等の体系的になっていないことについての批判)、この点はほかの図書館の例を多く引き出して、一番長い時間を使って説明した。

⑧ 来年春の市長選を前提として継続できるモデルなのか、ツタヤの売り上げを人件費にまわすモデルに継続性はあるのかと鋭く突っ込み、加えて図書館サービスの要求水準が曖昧であることを批判した。

⑨ 一方で、CCCがレンタルイショップのメージを変え、ブランド力を高めることが出来るのであれば、本のある公共空間がもっと増えていく可能性がある。民間のノウハウをうまく活用できているモデルであるとして評価した。

⑩ 行政サービスの継続性、Tポイントの公平性、業務の効率性が課題として残っていることを指摘して締めくくった。

政治の為の図書館が使われていると言う指摘や、これまで図書館界が作り上げてきたNDC分類に対抗するツタヤ分類の体系的な不備等をついて、バトルが開始された。

樋渡市長の反論

この施設は指定管理者制度を活用したものであり、議会の承認を得た案件であるので、来年の選挙戦のことを取り上げておもしろおかしく批判するのはルール違反だと反論した部分は、なるほどと感じられた。

ただし、それ以外の入館者数に対して貸し出し数が少ないことについての言い訳や、ツタヤを選択した言い訳(この点は、糸賀教授が批判した訳ではないのでなぜ説明したのかは不明であるが)等、聞いていて納得できるとは言えない部分が多かった。

高橋プロジェクトリーダーのコメント

自分たちでつくった分類を否定された高橋氏ではあるが、特に反論はありません。ただ言いたいのは「武雄市図書館は利用者の為の図書館なんです。」とバトルに参加するのをやめたのかと思っていたら、やはり、ほかの図書館と比較されたことに対しては強く反論していた。

この市民価値について樋渡市長がフォローして、武雄市図書館は提供者目線の図書館ではなく、ユーザー目線の図書館であることを強調した。

雑誌について

武雄市図書館には雑誌が600タイトルあるといわれるが、図書館には30タイトル程度しかおいていない。確かに、最新の雑誌は図書館で読めるがバックナンバーが無い。図書館に雑誌があるというのは、バックナンバーも合わせた形であることが重要であるため、図書館の雑誌のタイトル数をのばすべきであると言う糸賀教授のコメントはもっともなものであった。糸賀教授がマガジンカフェと命名した理由がよくわかった。

多賀城市の図書館とCCCの連携

多賀城市の市会議員により、駅前開発の中に、CCCと連携した図書館が検討されていることが説明された。これを引き受けて図書館を通した町づくりの話が樋渡市長から示された。

北海道の雄武町(おうむちょう)の図書館

雄武町での市民が参画した取り組みについての説明をしたが、市長とCCCが内容を決めた図書館と対局にある図書館として説明しているような印象を受けた。

高橋氏が考える図書館の望ましいモデルと糸賀教授への攻撃

ひな形になるようなモデルは無く、それぞれの自治体ごとに適切な図書館を作り上げていくべきだというコメントの後、糸賀教授は細かい点を指摘しているが、大局的なコメントをしてもらいたいと糸賀教授に対して皮肉っぽく要求した。

糸賀教授の逆襲

糸賀教授は、この皮肉をTポイントは武雄のT、多賀城のTで 、Tポイントを使えば良いのだという糸賀節のジョークでかわした後に、大局的なコメントして「官は市場が成功しない分野にしかサービス提供できないものとみられてきたが、武雄の例では市場が成立している分野と官が連携できる分野として新たなモデルとしてとらえることが出来る。」とコメントした。高橋氏の皮肉に対して、糸賀教授は「余計なお世話かもしれないが、TSUTAYAの映像と音楽のレンタル部分は見直した方がいいんじゃないの?」と返し、本当のフィジカルなバトルが始まるのではないかという緊張感が一瞬走った。

地域資料が十分に整備されていないこと

地域資料が整備されないことに対しては、地域資料の整備の優先順位が高くないからであるという糸賀教授のコメントについては、市長も高橋氏も合意し、緊張感が若干和らいだ。ほっとした反面、時間も終わりに近づいているしこれでもう終わりかと少し残念でもあった。

糸賀教授の締めの言葉

継続性、公平性、効率性が重要であるが、この新しいモデルには集客性が必要なモデルであろうと締めた。

高橋氏の締めの言葉

「それは、われわれに公平性が無いと言う意味ですか?」とバトルの再開を要求した。沈黙が数秒続き、バトルの再開かと再度緊張感が走ったが、

「CCCは、集客性が高いところと組む訳ではない。そうではなく、市民価値をどうするのかと言うことが大切だと考えている。したがって、その考え方が共有できる自治体とでなければCCCは組まないと明言した。武雄は今後進化する。日々修正しているので、温泉に入るついでに、ぜひ、武雄市図書館に来てもらいたい。」と締めた。

市長の締めの言葉

政治からしく、糸賀先生は場を盛り上げる為に、あえて批判したのでしょう。これからも、武雄市図書館は良くなり続けていきますよと丸くおさめた。

総括

提示された数字を客観的にみると、集客が倍であるのに、貸し出しはその半分しかのびていないのは、その利用形態から明らかである。そのため、形態をかえない限りは、今後武雄市図書館の貸し出しがのびることは期待できない。

これだけの数字が出ているのだから、糸賀教授のように、これは新しいモデルであると言うところからスタートすれば良いはずである。それを、今後図書館利用が伸びていくんだとした市長の言葉には説得性が無かった。どうも市長の方が、意図が教授よりも既存の図書館の概念にとらわれているようである。

また、高橋氏の自分たちにブレは無い。市民価値に基づいて望ましい図書館をつくるだけだと言う言葉は、利用者の利用形態から考えて、顧客が求める望ましいTSUTAYAをつくるんだと言っているように聞こえてしまう点が残念であった。これは、利用者の定義がなされていないため、たまたま今回集まってきた利用者のことをさしているように思われるからであり、また、武雄市の図書館のミッションやビジョンが明確に示されていないことも大きな問題である。市長とCCCがつくった図書館であり、雄武町のようなミッションやビジョン作りから初めてつくられた図書館ではないと言う点は、糸賀教授から定義された今後の図書館のあり方についての課題ととらえてよいのではないだろうか。

今回の対戦のみどころは高橋氏の糸賀教授への攻撃であったが、糸賀教授にうまくジョークでかわされた上に、逆襲されてしまった。

判定

内容からして、「市長&ツタヤチーム」対「教授」のバトルとなり、教授の勝ちであった。ただ、今回のバトルトークの中で、糸賀教授が指定管理者制度は、図書館界を活性化させる為に必要なプロセスであったというコメントを出しており、糸賀教授を守護神としてあがめていた図書館界に大きな波紋が広がる可能性がある。

 

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