究極のPPPと言われるサンディ・スプリングス市のPPPをチェックした。

究極のPPPと言われるサンディ・スプリングス市のPPPをチェックした。

スマート・シティ2013でのサンディ・スプリングス市の講演

現在パシフィコ横浜で開催されているスマート・シティ2013で、究極のPPPの事例としてしばしば取り上げられるアメリカのサンディ・スプリング市のPPPについての講演“民間企業が都市を運営?サンデー・スプリングス市の衝撃”があったので参加した。

ここでは、優先順位に基づいたサービス提供プロセスを中心に説明する。

自治体の財政状況

今年の7月19日に、デトロイト市が連邦破産法9条の適用を申請して話題になったが、その原因は米自動車産業の黄金期には200万人近かった人口が、現在約70万人ほどになり、市の税収が減少したからだと言う。デトロイト市の近郊には、ミシガン大学アナーバー校等の著名大学があり、アナーバーにはGoogleも拠点を構えているが、行政区域上はデトロイトに入らない。デトロイトは、町が開発された歴史が古いため、破綻を免れたGMで働く高賃金労働者の多くは、郊外の町に住んでおり、デトロイトの市内には低賃金労働者や移民等の多くが住んでいるのだという。

アメリカの自治体には、デトロイトだけでなく似たような財政状況が悪化している自治体が多くある。

ただこのような、財政状況の悪化はアメリカだけでなく、世界的な課題となっている。

サンディ・スプリングス市とは?

サンディ・スプリングス市はジョージア州の首都であるアトランタ市の首都圏にあり、2005年に市として成立した新しい都市である。夜間人口は10万人弱であるが、昼間人口は20万人になる。米国のFortune500の代表的な企業であるUPS(米国のヤマト運輸の様な企業)の本社をはじめとして米国の有名企業が拠点を構えている。

市独自の財源に基づいて年間の年度経費とみなされる一般会計の執行予算は87.8百万ドル(87.8億円)と、連邦政府や州政府からの補助金及び一般会計繰り入れや前年度バランスを財源としたバランスシート上の投資事業として見なされるキャピタルプロジェクトファンド(投資事業資金)が90.5百万ドル(90.5億円)と、予算を2つに分けて市の運営が行われている。

サンディ・スプリングス市は、前述したような自治体の財政の破綻が起きないような仕組みが組み込まれているという。

市の運営プロセス

市の運営は“Priority Driven Service Delivery Process(優先順位に基づいたサービス提供プロセス”と呼ばれる6つのプロセスで、7つ目のプロセスはが1つ目に循環する仕組みを使って運営が行われている。

1)      市及びコミュニティーの要求の明確化

2)      市長と議会による優先順位の設定

3)      優先順位に基づいた予算案

4)      予算の採択

5)      予算の執行

6)      市民による遂行及びフィードバック

7)      1)の要求への反映

 市およびコミュニティーの要求と議会が設定する優先順位

市長及び議会は、市及びコミュニティーのニーズを把握した上で、公共サービスの優先順位について提案を行い、市民とのワークショップを通して公共サービスの優先順位を決定する。講演ではその詳細についての説明はおこなわれなかったが、市の公表した資料をもとに検証すると以下のように、採択された優先順位に対して新たな優先順位をシティマネージャーが提案したことがわかる。

採択優先項目
承認/変更
提案された優先項目
1)         公共安全
承認
1)         公共安全
2)         交通
承認
2)         交通
3)         雨水対策
新規
3)         リクレーションと文化的品質の向上
4)         ダウンタウン開発
順位変更
4)         自然保護
5)         コミュニティーの美観
承認
5)         コミュニティーの美観
6)         レクリエーション
順位名称変更
6)         ダウンタウン開発
7)         承認
承認
7)         経済的発展

 

一般財源事業の予算策定について

基本的には、税収にあわせた予算が策定される。

例えば、2014年度の優先順位の高い予算の要素変動は次のようなものであった。

優先順位の高い費用
前年度費
税収の変動
3.1%減
−2,446,103
税収合計78.9Mill
(1)       一般財源の固定費
5.67%増
14,166,230
(2)       下請け契約の見直し
4.29%増
5,570,000
(3)       警察車両の更新計画
808,800
(4)       消防車4台購入費用
145,000
(5)       選挙資金
375,000
(6)       コミュニティイベント
280,000
(7)       消防署車両更新ファイナンス
775,000
(8)       緊急通報センター運営
900,000
(9)       緊急医療サービス補助金
450,000
(10)    保管施設関連費用
309,710
(1)〜(10)の合計
23,779,740
80Millの約30%

税収の変動を予測した上で、優先順位の高いものに必要な予算を振り当て、残りを調整するというプロセスである。この場合、予算を80millとしてみると、約30%は優先して予算配分していることがわかる。

投資事業資金(社会資本整備)の優先順位に基づいた予算査定

社会資本改善事業の予算配分については、2013年度、2014年度ともに開示された情報は見つからなかったが、わかりやすく説明をする為に2013年度の予算査定の例を使って説明したものであると思われるが、次のような進め方で予算査定している。

3月〜4月にシティマネージャーによる部門別予算ヒアリングを行っている。財務レビューを行い、優先順位は、前年度との予算増減の段階で調整される。

4月〜5月にシニアマネジメント及び市長によるレビューが行われる。6つの地区の代表者である6人のCouncil(地区議員)と市長が、投資事業の優先順位をつけ、それを平均することで予算上の優先順位付けをする。この時、財源の一律カットではなく、適切な事業見積もりを行った上で、優先順位の高いものから事業を選定していく。従って、優先順位が低いと見なされた事業には、予算配分が終わった時点で、予算なしとなる。

市やそれぞれのコミュニティーに取っての課題の重要性は、市の実情を理解したシティマネージャーが、優先順位を提示することから始まり、その優先順位にあたって取らなければならない対策が明確化される。この作業は、市のビジョンを毎年調整しているものと見なしてよいと考える。その際に必要な費用は確実に予算化するため、最も重要な問題を解決する為の予算は確実に確保される。

また、継続性のある必要なコスト見直しについても高い優先順位を与えるため、継続性のある事業の業務遂行に支障はない。

このような、継続性の担保と選択可能な戦略をうまく組み合わせて、税収にあわせた予算を確保することから、デトロイトで生じたような財政破綻が生じないという仕組みである。

このような予算案を策定した後のスケジュールは次の通りである。

4月30日 予算ワークショップ1

5月7日 予算ワークショップ2

5月21日 議会への予算プレゼンテーション(予算案)

6月4日 1回目の2014年予算の公聴会と討議

6月18日 最終広聴と議会による採択

ちなみに、市の会計年度は、7月1日から翌年の6月30日までであるので、会計年度の始まる1ヶ月と10日ほど前には、予算案が可決されるというスケジュールになっている。

マネージャーによる属人的要素のきわめて強い運営

印象として、アメリカらしさを感じたが、きわめて優秀なシティーマネージャーがいて初めて成り立つ仕組みであると感じた。アメリカには、シティーマネージャーによる運営がおこなわれている自治体の方が多く、有能な市長が運営している自治体の数の方が少ないようである。

この市のEva Galambos市長は、都市財政と労働経済のPhDを持ったエコノミストであり、労働争議の仲裁人としても活躍してきた女性である。このような経歴から見ると、市長自ら自治体運営を行っても良さそうな期もするが、あえて、優秀なシティマネージャーを雇用しているところが彼女の優れていること炉かもしれない。

日本の場合は首長に予算の策定及び議会への提出権があることが一見制度上の課題になりそうな気もするが、サンディスプリングス市においても、シティーマネージャーは、あくまでも運営の枠組みを提案した上で、認められた範囲内での業務を遂行していることから、日本においても適用できない仕組みではないと考えられる。

紛らわしい仮名表記

最後に余談であるが、市の名称はSandy Springs(砂の泉)であって、Sunday Springs(日曜日の泉)ではない。以前インターネットで調べたが出てこなかった。カタカナ表示には気をつけてもらいたい。

 

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