割賦払いのPFIを民間投資型PFIに転換せよ

割賦払いのPFIを民間投資型PFIに転換せよ

11月5日にPHP政策力アップ講座の一環で、「公共施設マネジメントにPFIを活用する手法」と題して地方自治体議員向けのセミナーを開催した。

講義の後で1時間ほどの時間をかけて、神奈川大学の南学特任教授および参加された自治体議員の皆さんと質疑応答をしていく中で、いままで、私が当然だと思っていたことが、いかに理解されていないのか、間違って理解されているのかがよくわかった。

以下、1999年に導入され、最後の法改正が2011年に行われたPFI法に関する課題について整理した.

1. PFIとは呼べない日本版PFI事業

これまでずっと言い続けているように、今の日本のPFIは、英国のPFIの実態を理解せずに、短期的なキャッシュフローの改善を民間の資金を活用して割賦払いしているにすぎない。しかも、活用した組織の財政を悪化させている。

1.1 英国におけるPFIの導入

英国では、メジャー政権の1992年に正式にPFIがスタートしたといわれるが、民間事業者がコンセッション契約に基づいて投資を行い利用者からの料金回収で融資を返済するモデルであり、東南アジアで導入されたBOT手法に近いものであった。

このように、PFI手法は、もともと、民間投資によって公的な施設を民間に整備・所有させ、当該サービスを利用する利用者からサービス料金を徴収するものであり、割賦払いの要素はない。

1.2 公的債務を拡大させないサービス購入契約のPFI

日本では、割賦払いが前提のPFI事業が多く、割賦であるにもかかわらずサービス購入型と命名したことが、PFI手法を適正に理解することを阻み、内閣府のガイドラインにおいても混乱を招いている。

利用者料金の発生しない公共施設にPFI手法が適用されているのは、利用者からの料金収入によって事業が成り立つのであるから、公共が施設を所有するのをやめ、民間に公共施設を所有させ、その施設の利用サービスを公共が利用者となって購入すれば同様の仕組みが成り立つという考え方に基づいていると思われる。

公共は、投資をせず、民間のサービスを購入するだけであるため、サービスの受領後から支払いまでの間に、利用したサービスに対する債務が生じるだけである。ところが、割賦支払いだと、施設整備費が債務になってしまう。

わかりやすくする為に、割引率や、支払い金利を0と想定した上で、例えば150億円の施設整備投資が必要な公共事業があり、完成後30年間に150億円の運営費が必要な事業があったと想定してみよう。

割賦払いで契約を締結すると、施設が完成し所有権が公共に移転した点で、施設整備費の支払い債務が発生する。150億円の債務である。

これに対して、サービス購入型のPFI事業を導入すれば、毎年10億円を30年間払い続けることになる。1年後には、割賦であれば、10億円を支払い、債務が140億円となるが、サービス購入型であれば、10億円の債務に対して10億円を支払う為に、債務は0である。もちろん、金利の支払いが生じるため10億円で済む訳ではないが、自治体の債務が割賦払いによってふくれあがることがわかるはずである。

2 サービス購入を割賦払いと誤解しPFI法案を起草

英国でPFIのガイドラインであるSoPC(Standardisation of PFI Contract :PFI契約の標準化)が、公表されたのは1999年7月であり、日本のPFI法が施行されたのも1999年7月である。これは、日本のPFI法が、英国のサービス購入型のPFIの実態を理解することなく割賦手法をPFIという名前で、間違えて導入したことを意味する。

ちなみに、アジア諸国におけるPPPの制度が整ったのは2002年以降であり、すでに英国やオーストラリアのPFI/PPPガイドラインが数多く公表されていたことから、PFI/PPPとは、パフォーマンスに連動したサービス購入契約によって公共施設を整備する仕組みがPPPであるという常識に基づいて制度設計が行われている。日本は、PFIの実態を理解できないまま、割賦であると早合点したのである。PFIの本質的な仕組みの誤解である。

3 英国でのPFI導入のメリット

3.1 コスト増加の防止と工期の厳守がメリット

英国でPFI導入のメリットを聞くと、建設コストの増加抑制と工期遵守が必ず第1にあげられる。PFIが導入されるまでは、建設工事における追加コストの発生と工期の延長が頻繁に発生することが問題になっていた。

施設の購入ではなく、定額のサービス購入費用によって、完成した施設のサービスを購入する形態に契約を変更すると、工期遅延やコスト増等の建設関連リスクを民間に移転することができるようになる。ところが、日本では一式無増減の契約金額と、工期遵守が浸透していたため、このメリットはなかった。その為、施設整備をサービス購入に転換したことがPFI手法の本質であるという点が理解できなかったのではないかと考えられる。

3.2 分離可能な契約の一括発注と不可分なサービスの包括契約の違い

分離可能な契約を一括発注することと、施設に関連するサービスを包括的に提供するサービスを提供することは同じではない。

出来上がった施設が適切に利用できる状態である時に、金額的には施設を整備した投資額と運営の費用を足し合わせて平準化した額が支払われるが、契約内容は、施設の利用可能性とサービスのパフォーマンスと、従量料金を組み合わせた支払いであり、発注者の支払いを施設整備費や、サービス料金として分解することは出来ない仕組みである。これをユニタリーペイメントによる支払いと呼ぶ。

PFI契約を会計処理をする場合、会計の透明性を維持するため、分離可能な契約は分離した上で、それぞれの契約毎に支払いも分離しなければならないというルールがある。これを契約分離の原則と呼ふ。日本のBTO契約は英国ではPFI契約として認められない。それは施設を整備して割賦払いする契約と、出来上がった施設の維持管理運営を委託する契約は明らかに分離可能であるからである。

4 債権担保の融資契約に基づくプロジェクトファイナンス

事業が適切に運営されれば、事業から収益が生まれ、融資が回収できるが、事業者のサービスパフォーマンスが低下すれば、支払いが減額され、事業から利益が生まれなくなる。事業者には支払いを減額されないように品質を維持しようとするインセンティブがある。これは、サービス品質を低下させない為の発注者と事業者間の仕組みである。

金融期間は事業者と融資契約を締結して融資するが、公共とは関係がない。公共と契約関係がないので、事業が悪化した時に、金融機関が出来ることは事業者に経営改善要求だけである。事業者と発注者の契約に口出しすることは出来ない。そして、事業者が健全な運営にもどることができなければ発注者から契約解除され事業は破綻してしまう。

発注者と事業者間には、サービス料金の支払いを減額する仕組みがあるだけにとどまらず、運営が不適切な場合には発注者は契約を解除する権利がある。(発注者が契約を守らない場合には事業者に契約を破棄する権利があるが、ここではそれについては触れないことにする。)

金融機関に取ってみれば、契約を解除されると、事業が破綻し、融資額が回収不能となり、精算業務をスタートしなくてはならない。一方発注者にしてみても、事業は継続する必要があるため、事業者との契約を解除した場合は、新しい事業者と契約を締結し直さなければならない。手間もかかるしコストもかかるので発注者はこの方法はなるべくさけたい。発注者、金融機関ともに契約を継続したいことにおいて利害は一致している。

そこで、このような発注者と金融機関に共通した利害にもとづいて、発注者と金融機関が事業契約、融資契約の締結と同時に直接契約を締結する。発注者は、直接契約により、事業契約を解除する前に、金融機関に事業介入することを認め、事業者を交換する等による業務改善を行う。この時、事業者、発注者、金融機関のだれにも債権債務は生じない。

直接契約は、事業者と発注者との間の事業を継続する権利を担保債権として金融機関が融資するための契約である。従って、融資とは直接的な関係はなく、発注者が事業者にコンセッションを与えることは債務にはならない。プロジェクトファイナンスとは、このような事業価値を債権として金融機関が融資を行う契約である。

5 大福帳会計の悲劇

大福帳の会計では、割賦払いとサービス料金の支払いを区別することが出来ない。なぜならば、債務の概念がないからである。債務は別途、長期債務負担行為等で確認するだけである。

わかりやすい例で言うと、大福帳会計で、コピーマシンをレンタルすることと、ファイナンスリースでコピーマシンを購入することに違いはない。レンタルは、レンタル期間が終わる毎に請求書が作成され、その請求書によって生じた債務を支払えば済む一方で、ファイナンスリースは、機械の所有権が名目上事業者に残っていたとしても機械の購入契約であり、機械代金の全額が契約締結とともに購入者の債務となる。

割賦、ファイナンスリース、オペレーティングリースの違いがわからない大福帳会計であったことが、割賦によって債務をふくれあがらせることを認めた原因であったのではないかと考えられる。

6 財政健全化に反するPFI

多くのBTO案件がそうであるように、PFI手法をBTO方式で行うことは、割賦払いを確定し、債務を拡大することになる。短期的に民間資金調達によってキャッシュフローを改善することは出来るが、公共の債務をふくれあがらせる為財政を悪化させてしまう。

施設というものは一旦更新すると後は劣化するだけであることから、なぜ、政府が施設を所有したいと考えているのかよく理解できないが、民間に施設を所有させるか、公共がどうしても施設を所有しておきたいのであれば、長期的に民間事業者にリースした施設を活用してサービス提供する方法をとることも出来る。

いままで400件4.25兆円もの割賦払いPFIを推進してきた。内訳を検証した訳ではないが、施設設備投資を運営が50:50と想定すると、2.12兆円は、PFIを導入したことによって公的債務が膨らんだことになる。ハコモノ案件が多いと言われることから、拡大した公的債務は、2.5兆円あたとすれば、500兆円のGDPに対して0.5%の債務拡大をPFI手法を使って行ったことになる。

7 物権を債権としたわが国のPFI事業のコンセッション

内閣府がPFI推進委員会で公表した「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関するPT研究報告」によるとコンセッション方式を物権としてしまったため、官はコンセッション権が売れたとしても、民間はコンセッション権を運営権として資産計上し、減価償却で30年にわたってその運営権をコスト化して30年後に資産を償却し終わることになっている。もちろん、これは、民間事業者にとっては、確実にコンセッション権をコスト化できる手法であるので便利な手法だ。

しかしながら、このような物権にしたことによって、官は受け取ったキャッシュを「繰延受取運営権対価」として処理しなければならなくなる。つまり、その分を債務として抱え込むことになる。これは明らかに、財政健全化に反するものである。

8 ルールさえ変えれば財政改善に活用可能

地方自治体は、分権改革により、自主責任で行政経営を行っていかなければならない。数多くの公共施設や社会インフラが老朽化しており、その更新の為に、既にGDPの200%を超えている公的債務はこれ以上増やせるものではない。

民間に施設を持たせる形で民間投資を引き出すのであれば、対象となる施設についても限定する必要があるかもしれない。しかしながら、世界中でPPPを活用して、いかにして政府の債務を拡大させることなく公共施設や社会インフラを整備していくのかを競争している環境の中にわが国もあることを忘れてはならない。日本ではPFI手法という名称を使いながら、割賦払いで施設を整備することしか出来ないことは恥ずかしいことであり、財政を悪化させる無駄遣いであるとも言えよう。

PFI手法を導入していない自治体が、まだ、90%以上あるという。ある意味で、これらの自治体は賢明である。割賦や、物権担保による既存のPFIの仕組みの活用では、債務が拡大し財政悪化に繋がるからである。

割賦払いのPFIは明らかに誤りである。過ちては則ち改むるに憚ること勿れという。

この問題を単なる勘違いで済ませることなく、メディアや有識者の見識が問われる国家的な課題であると認識し、早急に改善することは全ての納税者の要望のはずである。

« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です