民間の創意工夫と適切なリスク移管をふまえたPFI事業の例について⑴

FAQ

民間の創意工夫と適切なリスク移管をふまえたPFI事業の例について⑴

質問

民間の創意工夫と適切なリスク移管をふまえて、次のようなPFI事業の例が成り立つでしょうか

ケース1)市立体育館のPFI案件として以下のような概要で民間資金を活用することでVFMが生まれるPFI事業は成り立つでしょうか。

  1. 民間が場所も提案して市立体育館をたてる
  2. 一定条件で、市立体育館として市民らに便益を図る
  3. 利用者の利用料金 + 市の財政支援で収支をとらせる
  4. これらをパッケージで提案させ、透明なプロセスを通す。

回答

失敗した事例ですが、英国で類似したPFI案件が成立していますので、成立する可能性がないとは言えません。しかしながら、民間が場所も提案して契約を締結するにはかなりのハードルがありそうですので、最初からそのような案件に取り組むことは進められません。

1.スポーツ施設へのPFI手法は適切ですが、土地を含めた自由提案は適正な案件合意が困難だと思われます。

スポーツ施設に活用されるPFI事業は、多くの場合、独立採算では回りません。そのため、利用者からの料金収入と補助金によって成り立つJV型のPFI事業として考えることができます。英国においても、同様のタイプの事業です。英国では、総合スポーツセンターのPFI調達パッケージが出ており、これを参考にすることが可能です。

2の一定条件が要求水準であり、3の利用料金設定が利用者料金と市からの補助金であるとすると、事業は成り立つと考えられます。但し、1の前提条件がついた4のパッケージ比較は、支払額の比較が非常に困難となるので条件にしない方が良いと考えられます。

2.土地の自由提案を認めたPFI事業が過去に英国で失敗しています。

本提案例では、場所を特定せずに事業者に提案させると言う要素が含まれています。この案件と似たようなPFI案件が英国で導入されたことがあります。1996年に英国の Leeds市にオープンした the Royal Armory Museum(武具博物館)です。但し、このPFI事業は破綻し、直接公共運営になってしまった一つの失敗PFI事例の1つです。この失敗例を使いながら、追加説明をします。

2−1.事業の概要

場所がオープンだったのは、既存のArmory Museumの老朽化と、展示施設の拡大ニーズはありましたが、特に場所を設定する必要がなかったためでした。土地は、結果的には別の公共組織の土地をクライアントがリース契約をして事業者に再リースしたものであり、本案件は来場者の入館料で成り立つコンセッションタイプでした。

2−2.来場者予測

1993年10月の当初の予測は、初年度が60万人強、2年度以降は80万人弱でした。

また、学校の訪問や、外国人ツーリストを除いた別の予測は、初年度が90万人、2年度以降は100万人であり、学校の訪問と外国人ツーリストを含んだ予測値は初年度が120万人弱、2年度が125万人程度、3年度以降が130万人でした。

入場料と、運営費用がバランスする採算分岐点は55万人の入場者でしたので、入場者数が採算分岐点を下回ることは無いと想定されていましたが、実際の入場者は、初年度が32.4万人、2年度が34.4万人、3年度が32.7万人、4年度は19.1万人となり、4年度は採算分岐点の入場者数の35%以下でした。

予想を遥かに下回る来館者であったため、事業者も、来館者数予測をした発注者側の責任だと争議になりました。結果的には、発注者による施設の買い取りで決着したはずです。

3.教訓:類似施設の無かった場所では事業予測が困難であり、民間にリスク移転することは困難です。

多くのPFI事業が公共が有している土地に施設整備をするのは、土地は減価償却が出来ないことから、土地代も含めたサービス料になると非常に高いものになってしまうという理由だけではなく、その土地における利用者数の予測が困難であるからだと考えられます。

土地代の問題は、次の事業のバリエーションで片付けることが出来ます。しかしながら、来館者の予測は、特に新たな場所で新たな事業を実施する場合には困難であり、そのため、その予測に基づいた入館料の変動リスクを民間に移管することには無理があります。

4.バリエーション

土地を定期借地権として土地代をコスト化する方法や、契約最終日における土地代を含めた施設の残存価格での購入等と言う方法をとれば、土地代が減価償却できない問題点は解決することが出来る可能性があります。本案件も、土地のリースによって対応したものでした。

5.支払いメカニズム

利用者料金と市の補助金の割合をどうするのか、合意した額が適正かどうかをどうやって判断するのか等、利用者予測に関連した問題点が生じてきます。これらの問題は、補助金の性格上、想定される利用者数とその収入についての適切な合意が必要になるため、利用者数の予測が困難な案件では、これらの問題点に関する合意が困難になると考えられます。

英国においては、民間事業者が予測することが困難なリスク(入場者数変動リスク等)は、このような失敗事例をフィードバックして、民間に委託することは適切ではないと考えられています。

2011年のPFI法の改定は、このような民間にとらせることが困難なリスクを、無理にとらせようとしているような印象を受けるので、利用者が変動するリスクのあるコンセッションでは、十分な検討が必要です。

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