質問1 VFMはいつ必要なのですか?
PFI事業を実施する場合、自治体は特定事業選定を行います。
この特定事業選定においてVFMが必要となります。
質問2 特定事業って何ですか?
特定事業は、PFI法第6条に記載されているように実施することが適切であると認める事業のことをさします。
同法第5条(実施方針)に記載されているように、特定事業を選定したときは「特定事業の実施に関する方針(以下「実施方針」という。)」を公表します。
質問3 特定事業の実施方針には何を記載するのですか?
実施方針は、特定事業について、次の7つの事項を具体的に定めます。
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一 特定事業の選定に関する事項
二 民間事業者の募集及び選定に関する事項
三 民間事業者の責任の明確化等事業の適正かつ確実な実施の確保に関する事項
四 公共施設等の立地並びに規模及び配置に関する事項
五 事業契約の解釈について疑義が生じた場合における措置に関する事項
六 事業の継続が困難となった場合における措置に関する事項
七 法制上及び税制上の措置並びに財政上及び金融上の支援に関する事項
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質問4 特定事業の選定は、どのようにして行うのですか?
実施方針の一番最初に記載されている特定事業の選定については、同法第4条3の一に次のように記載されています。
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「一 特定事業の選定については、公共施設等の整備等における公共性及び安全性を確保しつつ、事業に要する費用の縮減等資金の効率的使用、国民に対するサービスの提供における行政のかかわり方の改革、民間の事業機会の創出その他の成果がもたらされるようにするとともに、民間事業者の自主性を尊重すること。」
************************************************************************ つまり、特定事業の選定をする場合には、費用の縮減等資金の効率的な仕様等の効果がもたらされるようにする必要があります。
内閣府のガイドラインには、特定事業の決定について次のように記載されています。
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この決定は、当該事業をPFIで行うことにより、公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営等が効率的かつ効果的に実施できるかどうか(VFM評価)が判断基準となります。
特定事業の選定を判断するVFM評価は 可能性調査等により既に検証したVFMに 、 その後の意見招請等により変更した内容を加味して行い、事前に財政課と協議の上、確定します。
また、特定事業の選定の結果については、その判断基準となったVFM評価と併せて速やかに公表します。
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質問5 VFMはどのようにして算定するのですか?
VFMは、公共が自ら実施する場合のLCC(ライフサイクルコスト)を基準値(PFI等の他の手法と比較する基準値という意味でPSC(Public Sector Comparator)公共セクター基準値と呼ぶ)とし、この値とPFI事業のLCCをNPV(現在価値)で比較することによって算定します。
特定事業を算定する場合にこのVFMを活用する目的は、従来の手法とは異なった手法で事業を実施できる可能性があるのかを模索し、民間事業者によるイノベーティブな手法で、従来公共が抱え込んでいたリスクコストをどれだけ民間側に移転することが出来るのかを算定する為です。
質問6 PSCはどのようにして算定するのですか?
PSCは、公共がどのようにして施設整備を行い運営するのかをPFIのLCCと比較できるように、キャッシュフローで作成します。
間接コストの算定の仕方については、詳細の説明はありませんが、市場化テストにおける官民のコスト比較が参考になります。
いずれにせよ、このPSCは、自ら実施する場合のLCCを適切に積み上げる以外ありません。
質問7 PFIのLCCはどのようにして算定するのですか?
国内の多くのPFI事業のVFM算定において、最も大きな課題はこのPFIのLCCの算定にあります。
「内閣府のVFMに関するガイドライン」が算定をわかりにくくしている原因の1つです。
PFI事業のLCCの算定条件の後半部分と、算定方法がわかりにくい部分です。
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「三 PFI事業音LCCの算定 1算定の前提条件」
(3) 民間事業者が、本来公共部門が必要とする施設(事業)に付帯的施設(事業)部分を加えて事業を実施する場合も想定され得るが、特定事業の選定段階におけるPFI事業のLCC算定に当たっては、原則として、本来公共部門が必要とする施設(事業)のみを想定する。
ただし、当該PFI事業に付帯的施設(事業)を組み合わせることが予見され、実施方針において、その内容が具体的に示されている場合は、当該付帯的施設(事業)を含めて全体事業費を計算した上で、本来の公共施設に相当する部分を取り出して、PFI事業のLCCを算定することとしても差し支えない。
(4) 民間事業者の選定段階におけるVFMの確認に当たっては、選定しようとしている民間事業者の事業計画に基づき、付帯的施設(事業)も含めた全体事業費の中から、本来の公共施設に相当する部分を取り出して、PFI事業のLCCを算定する。
2 算定方法
(1) 民間事業者が当該事業を行う場合の費用を、設計、建設、維持管理、運営の各段階ごとに推定し、積み上げ、その上で公共施設等の管理者等が事業期間全体を通じて負担する費用を算定する。
(2) 積み上げに当たっては、コンサルタント等の活用や類似事業に関する実態調査や市場調査を行う等して、算出根拠を明確にした上で、民間事業者の損益計画、資金収支計画等を各年度毎に想定し、計算する。なお、民間事業者が求める適正な利益、配当を織り込む必要があることに留意する。
(3) 間接コストについては、上記二3に準じて、PFI事業のLCCに算入する。
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上記(3)の但し書きの部分は混乱を生み出す可能性があります。
PSCは、公共事業のみの実施が前提ですので、PFIのLCCもPSCと比較する為には、公共事業部分のみで算定することが前提のはずです。
どのような提案となるのかは、民間事業者によって異なるはずです。付帯的施設であるならば、付帯的施設なしの提案もあるはずです。もし付帯的施設が必須なのであれば、それは付帯的施設も含めて要求している訳ですから、PSCにもPFIのLCCのどちらにもふくまれているはずです。
質問8 民間事業者提案部分はどう算定すれば良いのですか?
もちろん、ここに記載されているような、民間事業に活用するようなブレークスルー的なアイデアを入れることは事業提案の段階では必要になります。
そのため、特定事業を選定する上においては、あくまでもPSCと比較する部分のみを想定してVFMを算定し、民間事業を活用できる場合は、事業者選定時にプラスしてVFMが出るものと考えれば良いでしょう。
この区別は民間事業提案を提示させるときと評価するときにも活用する必要があります。
民間事業者には、①PSCと比較可能なPFI事業のLCC、②民間事業のLCC、③民間事業を組み込むことで生じる“①”への影響、④民間事業を組み込んだことによって変動するリスク、⑤“①”から“④”を反映させた最終的なPFI事業のLCCの提示を求めることが適切です。
質問9 ガイドラインのPFI事業のLCCの算定 2算定方法がわかりにくいのですが?
PFI事業のLCC算定のコスト積み上げが類似事業や市場調査となっており、ここに民間事業者のノウハウを活用したブレークスルーの要素が含まれていないことが、このガイドラインを分かりにくくしている原因です。
もっともよくありそうで、不適切なPFI事業のLCCの算定方法は、PSCを事業者に提示して、何パーセントのVFMが出そうかを事業者に聞く方法です。このようなヒアリングを根拠にしてVFMが出る可能性があるとする方法が多くとられているようです。
この手法は不適切な方法です。なぜなら、事業のコストは、事業の実施方法によって大きく変わってくるからです。具体的にどのような事業を行う必要があるのか、なぜ、そのようなPSC算定となったのか、その事業で求められる要求水準はどのようなものか等の提示なしには、事業者はコスト見積もりをすることは出来ないはずです。
このようなPFI事業の算定方法がまかり通っている理由は、発注者とそのコンサルタント側、および事業者側の両方にあります。
発注者とコンサルタント側の理由
1)この方法でVFMの算定をして今まで問題になっていないこと
2)もっとも、手間がかからずに、簡単にVFMの算定が出来ること
3)ガイドラインに抵触しない方法であること
民間事業者側の理由
1)コストが下がると答えさえすれば事業化が進むため(営業活動の一環)
2)コストが下がると答えても、事業参画のコミットメントではないこと
3)ガイドラインに抵触しない問い合わせのため答えざるを得ないこと
質問10 PFI事業のLCC算定はどうすれば良いのですか。
本当に民間ノウハウを活用して、ブレークスルーを組み込みたいのであれば、次のような手順が必要となるはずです。
ステップ1:既存の施設で事業を継続することの問題点の明確化
一般的には、既存の施設では問題があるため、施設の建て替えが必要になる場合にPFI手法が用いられます。そのため、新しい施設に組み込む既存の問題解決の手法が何かあるはずです。この事業実施目的を明確化することが必要です。
ステップ2:PSCで想定する問題解決の方法と達成したい結果の明確化
PSCは、具体的に達成したい結果を出す為の手段や手法をコスト算定したものです。従って、PSCを算定した方法以外にも解決方法はあるはずです。
PSCを算定した方法によってどのような結果を達成したいのか、そして、PSCの方法を活用しても解決できない問題点が何なのかを明確化する必要があります。この解決できない問題点がPSCに含まれる事業リスクになります。
ステップ3:PSCで達成したい結果を達成する別手法のLCC算定の検討
①発注者が抱える問題点、②結果としての要求水準とPSCを算定した方法、③PSCを算定した方法を利用しても発注者が抱え続けるリスク を提示した上で、事業者とイノベーティブな解決手法について対話し見積もりさせる必要があります。
このとき、導入したい方法があるけれども、コストが高すぎて導入できそうもない解決方法がある場合には、それも参考の為に示しておくことが重要です。
事業者の事業提案のアイデアまでは聞き出す必要はありませんが、ブレークスルーによる既存のリスクの回避やリスク軽減の可能性の検討は重要です。
事業者に求める結果(要求水準)をアウトプットで示し、PSCと異なるイノベーティブな方法を複数引き出すことで、民間同士の競争が適切に働くようになります。
また、間接コストをPSCに準じてPFI事業のLCCに導入することは適切ではありません。適切な間接コストは、民間事業者に委託する事業の実施形態についての前提条件を事業者と対話しながら策定した上で算定することが重要です。
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熊谷弘志事務所はPFI事業で官民とWIN-WINの関係を構築するための作業をご支援します。
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