拙著『脱「日本版PFI」のススメ』を2022年末に上梓し、2024年から2年間のインドネシアの公共事業省へのPPP施策立案専門家として実務に携わった後、本年(2026年)5月に帰国しました。途上国におけるPPPの導入の在り方と、我が国のインフラ整備における官民連携のあり方の違いを実感し、日本のインフラ整備は今まさに大きな岐路に立たされていることを実感しています。
書籍というパッケージの中では、全体の構成や紙幅の都合上、どうしても十分に展開しきれなかった論点や、より深く掘り下げたい本質的なテーマがありました。そこで、本稿よりブログという形で、インフラ・ファイナンスやPPP/PFIの実務に切り込む考察を継続的に発信していくことにしました。状況に応じて中身をブラッシュアップし、読者の皆様とともに「これからの官民連携」の輪郭を作っていければと考えています。
記念すべき第1回目のテーマは、最も本質的でありながら、日本の実務の中で最も見失われがちな「PPP/PFIの定義と、その導入目的」についてです。
現在、日本全国で行われているPFI事業の多くは、実態として「ハコモノ整備の建設費用の割賦払い(分割払い)」に陥ってしまっています。しかし、本来のPPP/PFIが目指すべきは、資金調達の単なる先送りではありません。公共投資を民間投資に切り替え、これまでの行政がインフラを整備して維持管理していた公共のモノ調達を、民間投資によってサービス調達に転換し、持続可能な民間のサービス提供ビジネスを新たに構築することです。
実質的な「サービス調達型」へとパラダイムシフトを起こすためには、我々実務家がまず「そもそも、何のためにPFIを導入するのか?」という原点に立ち返る必要があります。今回は、その根本的な定義からひも解いていきましょう。
第1回 なぜ我々はPPP/PFIを導入するのか? 〜真の定義と目的を問い直す〜
内閣府が作成した「PPP/PFI推進アクションプラン(令和8年改定版)について」ではPFI/PPP手法を以下のように記載しています。
PPP/PFIは、公共施設等の整備・運営に民間事業者の資金や創意工夫、迅速な投資判断を活用することにより、効率的かつ効果的で良好な公共サービスを実現する手法です。
この内閣府によるPPP/PFIの手法の説明には、民間の資金・創意工夫・投資判断という“手段”が羅列されているだけで、「制度の本質」が語られていません。
なぜ公共施設等の整備運営に民間事業者の資金や創意工夫、迅速な投資判断の活用が必要なのでしょうか。
行政は「予算消化」「年度主義」「仕様書主義」に縛られ、継続的な価値創造のメカニズムを持ちません。一方で 民間は「投資をし、需要を創出し、価値向上させ、再投資につなげる」という循環投資の仕組みを持っています。
PPP/PFIとは、この民間が持っている循環投資の仕組みを公共サービスに組み込む制度設計なのです。単なる効率化やコスト削減ではないのです。
従来の委託とPPP/PFIの決定的な違い
● 従来の委託
従来の委託は「言われた仕様をいかに安くこなすか」であり、行政仕様に従うだけの受動的モデルです。そのため、民間事業者の投資インセンティブはなく、 結果的に価値創造もなければ、老朽化・人手不足に対応できないという状況に陥っていきます。
● PPP/PFI(特にコンセッション)
Going Concern(継続成長の前提)に基づいたPFI手法によって、公共事業に民間投資が行われる構造が設計されていれば、事業者自らの投資と経営努力で需要を喚起し、事業価値を高め続けることができるようになりまつ。つまり、民間の成長メカニズムが公共領域に移植されるのです。そして、投資が継続し、サービスレベルも向上する結果、地域経済に波及効果が生まれるという仕組みが必要です。
日本のPFIは民間の投資インセンティブの喪失だけでなく、経済も停滞させた
1999年のPFI法施行当初、民間は英国PFIの成功例を見て、民間のGoing Concern(継続企業の前提)に基づく継続成長のメカニズムを、公共サービスに組み込み、新たな公共インフラビジネスモデルを生み出すことができると期待しました。
しかし実際には以下のような事態の陥りました。
- 行政仕様に従うだけの受動的モデル
- 民間の創意工夫を発揮する余地がない
- 投資回収は行政の支払いに依存し需要創出の余地がない
- リスクは民間に偏り、リターンは限定的
結果として、民間のGoing Concernとしての成長メカニズムが働かず、投資インセンティブが消失してしまいました。これが日本のPFI市場が縮小し、民間が積極的に参入しなくなった根本原因であると考えます。
モノの調達からサービスの調達へ移行できなかった日本の悲劇
実は、PPP/PFIが注目された背景には、この新たな公共インフラビジネスモデルが、行政サービスの向上とコスト削減を達成させただけでなく、行政によるこれまでの施設の公共調達をサービス調達に転換するというパラダイムシフトにつながったことがあります。
その結果、公共投資として生み出していた経済効果に加えて、民間事業者による新たなサービス産業の創出につながり、それが民間同士の取引(B2B)へ広がっていくことで、欧州を中心に、サービス産業の成長が経済発展を支えました。
しかし日本では、PFI法の運用が結果として「施設整備費の割賦払いモデル」に偏ってしまったことで、本来成長できたはずのサービスビジネスの育成が抑制され、B2Bにおけるサービス産業も発展できなくなってしまいました。
これに加えて、行政調達においてモノづくりの仕様発注が中心となり、サービスのパフォーマンスで仕様発注する形態が後回しになった結果、質の高いインフラが生み出せる質の高いサービスビジネスが国内で構築できない状況が継続しているのだと考えます。かつて、PFI導入の初期段階において、「英国はインフラ整備の質が低いために、PFIのような仕組みが必要になったかもしれないが、インフラ整備の質が高い日本では、イギリスのようなPFI手法を導入するメリットはない」と公言する人もいたことを覚えています。
このような行政調達が日本のモノづくりを変える必要がないという考え方に偏り、サービス産業の育成を後回しにしてしまったことが日本のサービス産業の成長を阻害し、結果として経済停滞の一因となった可能性があると考えます。

アクションプランに「違和感」を覚えないか?
「PPP/PFI推進アクションプラン(令和8年改定版)について」 物価高騰などの足下の課題への対応の強化に加え、「量の拡大」「裾野の拡大」「質の向上」の3つの視点を基本的な方向性として、次のような改定のポイントが6つ示されています。
- 強い経済の実現への貢献 (事業規模目標を30兆円から40兆円へ見直し)
- 社会的課題に対応するためのPPP/PFIの裾野の拡大(分野拡大と目標見直し)
- 多様な案件の形成支援(スモールコンセッションの推進等)
- 関係府省や自治体間の連携強化(タスクフォース等の活用)
- 物価高騰等への対応(ガイドライン等の見直し等)
- その他(対象施設の追加、事後評価の推進等)
しかし、これらの改定の背景に「民間のGoing Concern(継続企業の前提)に基づく継続成長のメカニズムを、公共サービスに組み込み、新たなビジネスモデルを生み出すこと」という官民連携のパラダイムシフトが見えてきません。
目的がなんであるのかを示さないまま、分野を広げ、重点分野を拡大し、多様な案件の形成支援し、連携強化することこそ、避けなければならない対応なのではないかと感じてしまいます。
PPP/PFIは単なる公共工事の延長ではありません。民間事業者が自らの投資と創意工夫でサービスレベルを設計し、事業価値を持続的に高めていく「サービス経済の担い手」へと進化するための、ビジネスモデル変革(BPR)の絶好の機会であると民間事業者が感じられるようなビジネスモデルの仕組みを行政が構築する必要があるのです。
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