1.提言の背景と現状の課題:官民の「構造的なボタンの掛け違い」
令和8年6月に決定された「PPP/PFI推進アクションプラン(令和8年改定版)」では、事業規模目標の40兆円への拡大や、重点分野の追加など、官民連携を推進する方針が示されました。しかし、同プランにおけるPPP/PFIの定義は、いまだ「民間事業者の資金や創意工夫、迅速な投資判断を活用することにより、効率的かつ効果的で良好な公共サービスを実現する手法」という認識のままであり、この定義がPPP/PFIの導入における重大な誤解を生む可能性があります。
この定義は、民間事業者がPPP/PFIに取り組んでいる実務の現場において「行政のお墨付きによる単なるコスト削減(財政負担の軽減)」や「既存業務の民間への丸投げ」として解釈される傾向にあります。その結果、行政の「仕様書通りに作って終わりの公共投資」と、それに依存してイノベーションを怠る民間企業の姿勢が温存され、日本経済の停滞を招く一因となっています。
PFI事業が、単なる施設整備とその運営をパッケージ化した事業となっており、施設整備費は割賦で支払われ、民間が取れないリスクを行政から押し付けられているような状態を適切な官民連携と呼ぶことはできません。
2.基本理念の再定義:PPP/PFIの真の目的
アクションプランのようにPPP/PFIを単なる「効率的な施設整備と運営の手法」として矮小化するべきではありません。真の目的は以下の通り再定義されるべきです。
PPP/PFIとは、公共インフラの整備・運営のプロセスに、民間企業が本来持つ「Going Concern(継続企業の前提)」に基づく継続成長のメカニズムを組み込むことである。
そのためには、行政が提示した仕組みに基づいて、民間に自らのリスクで施設整備への投資を行わせることが重要です。民間資金の活用ではなく、民間投資が必要である。
民間投資であるため、不適切な運営をすると事業価値を棄損してしまう可能性があることから、市場の生存本能が喚起されるのである。
それによって、既存の行政主導の手法を凌駕する、持続可能で価値を生み出し続ける公共サービス提供ビジネスを民間に実現させることができるようになる。
PPP/PFIとは、これまでの、安く作って、効率的に運営するだけの公共調達を、民間のGoing Concernに基づいた継続成長できるビジネスに転換するための仕組みであり、公共調達を民間投資に転換するための戦略的フレームワークの構築としてとらえるべきである。
3.具体的な政策提言
このパラダイムシフトを実現し、「強い経済」と社会課題の解決を両立させるため、以下の3点を提言します。
提言1:公共セクターの役割転換と「成果志向型サービス調達(PBSP)」の導入
行政は、手段や仕様を細かく規定する従来型の発注方式から脱却する必要があります。行政の役割は「達成すべき成果(パフォーマンス)の定義」と「要求するサービスレベルの設定」に特化し、その達成手法は完全に民間に委ねる「PBSP(成果志向型サービス調達)」をPPP/PFIの標準プロセスとして位置づけるべきです。
提言2:民間部門の「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」を促す市場環境の創出
「Going Concern」の原則を公共サービスに導入することで、民間企業に受動的な請負業務からの脱却を迫ります。自らの投資に対するリターンを最大化するために、民間自身がサービスレベルを再設計し、持続的な事業価値を創造する「サービス経済の担い手」へと進化(BPR)せざるを得ない競争環境とインセンティブ設計を構築します。
提言3:ゲーム理論に基づく適切なリスク配分と自立的サイクルの確立
インフラ老朽化や人手不足等の課題に対しては、単なる予算の補填ではなく、事業の持続可能性を担保するリスク配分が不可欠です。需要変動や維持管理リスクを官民間で最適に配分し、民間が長期的な視野で継続投資を行える事業構造(LVC統合型パートナーシップ等)を制度として実装します。
4.経済成長の新たな仕組みの構築
このようにこれまでの公共調達を民間投資に転換して、新たなサービス提供ビジネスが民間事業者によって提供される仕組みが構築されることにより、これまで公共投資で生み出されていた投資価値が倍増することになります。いいかえると、これまでは、公共投資で整備された資産は、ゼネコンによる売り上げの対価としての認識のみでしたが、民間投資に切り替わることによって、発注者が官から民に代わるだけで、ゼネコンによる売り上げの対価は維持されつつ、これまで存在しなかった公共施設にかかわるサービス提供ビジネスが新たに成立するからです。
この仕組みが、社会に浸透していくと、民間同士の取引の中でも、例えば、これまでの企業が自ら投資して運営してきた倉庫が、流通会社の投資による物流ビジネスとして生まれ変わり、新しいサービスビジネスが生じることになるのです。
既に、欧米諸国ではこのようなモノの調達をサービス調達に転換するビジネスは一般化されつつあります。我が国においてもこのような、経済規模を膨らませる新たな仕組みを導入しなければ、経済成長できない状態はこれからの続いていくことになりかねません。
これまで私が著書を通して主張してきた「急がれるサービス調達への転換」とは、停滞している日本経済の再成長を得るためには、公共調達のパラダイムシフトを政府が進めることによって、この仕組みを社会に広げていくことの提言に他なりません。そのためには、PFI法の抜本的な見直しが必要だと考えています。
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