脱「日本版PFI」のその先へ:第8回 既存のガイドラインの課題 その5 モニタリングに関するガイドライン 

第4回以降、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」の課題、「事業におけるリスク分担に関するガイドライン」の課題、「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」の課題、「契約に関するガイドライン」の課題について整理しました。今回は、「モニタリングに関するガイドライン」(https://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/guideline/pdf/monitoring_guideline.pdf)の課題について整理します。

モニタリングは、民間事業者が提供するサービスが要求水準(SLA)を満たしているかを確認し、対価の支払いへと連動させる「サービス調達の要」となるプロセスです。しかし、現在のガイドラインを読み解くと、その実態は「民間を下請けとして管理・監督し、失敗があれば罰金(ペナルティ)を取る」という従来型の公共工事や委託業務のパラダイムから抜け出せていないことが分かります。

具体的にどのような課題があるのか、3つの観点から洗い出し、改善の方向性を整理します。

目次

1. 現行のモニタリングガイドラインにおける3つの根本的課題

課題1:「ノーサービス・ノーペイ」ではなく「懲罰的なペナルティ(減額)」が前提となっていること

サービス調達の基本は「受け取れなかったサービスに対しては支払いをしない(ノーサービス・ノーペイ)」という等価交換の原則です。しかし、現行のガイドラインでは、サービス水準が未達の場合の「ペナルティ(減額)」による動機付けが中心となっています。

本来、軽微なサービス水準の低下が発生したとしても、適切な「許容対応時間(治癒期間)」内に民間事業者が自律的に修復・改善を完了させれば、提供されるべきサービスは維持されたとみなし、対価は全額支払われるべきです。しかし、現状は「ミスがあれば即座に減額」という懲罰的なアプローチになりがちであり、これが民間企業のGoing Concern(継続企業の前提)を脅かす過度なリスクとなっています。ただし、実際のPFI契約の中では、減額は適用されていないのが実態です。

課題2:アウトプット(結果)ではなくインプット(仕様・手順)の監視になっていること

本来のPFIにおけるモニタリングは、「どのような機能やパフォーマンスが生み出されたか(アウトプット)」を客観的に測定・評価するものです。しかし、現行のガイドラインや実務においては、要求水準書が実質的な「仕様書」と化しているため、モニタリングも「仕様通りに清掃員が何人配置されているか」「指定された回数の点検を行ったか」というインプットの確認作業に陥っています。

これは、本来提示すべきサービスの機能やパフォーマンスが示されていないため、適切なサービスのモニタリングができていないことを示しています。民間事業者の創意工夫や、技術革新を用いた自律的なサービス改善の余地を完全に奪っており、しかもパフォーマンス評価において行政の過度な介入(マイクロマネジメント)を招きかねません。

課題3:想定を超える利用があった場合の「追加収益シェア」の仕組みが欠如していること

民間事業者が自立した継続企業として事業を運営していくためには、リスク(減額)だけでなく、想定を上回る収益が生まれた場合の対処が必要です。事業収入が利用者料金による収入である場合は、想定を上回る利用が行われることを想定しておく必要があります。これは、現行ガイドラインで触れている「ユニタリーペイメント(提供されたサービスを一体として認識し支払う方式)」とは異なり、利用者増に伴って、収入だけでなく、コストも上昇することや、設計上の許容量を超えた利用がなされる場合における追加投資の必要性の有無などにも対処する必要があります。

減額(ダウンサイド)ばかりが詳細に規定され、民間事業者は「いかにペナルティを受けないか(マイナスをゼロにするか)」という防衛的・消極的な事業運営に終始せざるを得なくなっていまが、増収に対する利益シェアの仕組みについても組み込む必要があります。

2. 「サービス調達型」へ向けた改善の方向性

モニタリングに関するガイドラインを「ハコモノ・委託業務の監督ツール」から、民間投資に基づく「真のサービス調達と支払いメカニズムの要」へと進化させるためには、以下の方向性で抜本的な改定を行う必要があります。

1.「減額(ペナルティ)」から「ノーサービス・ノーペイと治癒期間」への転換

懲罰的なペナルティからの脱却を図ります。「受け取れなかったサービスに対しては支払いをしない」という原則に基づく対価算定と同時に、適切な対応に必要な「許容対応時間(治癒期間)」を必ず設定します。一時的に支払いを保留する仕組みなどを支払いメカニズムに組み込み、治癒期間内にパフォーマンス改善ができれば減額を発動しないというルール(SLAの合意)を標準化します。

2.アウトプット指標の再定義と「放置すること」への評価

インプットの確認作業を廃止し、第三者評価や利用者満足度(顧客満足度調査)などを組み込んだ多角的な監視体制へと移行します。ただし、満足度の低下が直接的に即・減額に連動するのではなく、「客観的な評価や満足度が悪化したのに対策を取らずに放置すること」自体を不適切なサービス水準として評価・算定する仕組みへと転換します。官民双方が納得できる結果(アウトプット)の測定手法を構築します。

3.価値向上へのインセンティブ(プロフィットシェアリング)の義務化

民間事業者の事業収益が想定を上回った場合のプロフィットシェアリング(利益分配)の仕組みを組み込みます。また、設計上の利用者数を上回ったり、想定以上の負荷がかかる利用が行われた場合には、必要に応じて追加コストを認めたり、追加投資を求める等、適正な調整ができる支払いメカニズムを事前に設定することを重要事項として定めます。

モニタリングと支払いメカニズムは、民間事業者のGoing Concernを支える血流そのものです。これを「ペナルティによる恐怖政治」から「自律的な改善とイノベーションを促すエコシステム」へと転換すること。これこそが、ガイドライン改定の最大の眼目となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次