第4回では、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」の課題、第5回では「事業におけるリスク分担に関するガイドライン」の課題について整理しました。今回は、「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」(https://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/guideline/pdf/vfm_guideline.pdf)の課題について整理します。
VFM(Value For Money:支払いに対する価値)は、本来「なぜその事業を民間(PFI)に委ねるのか」を根拠づけるPFIの心臓部とも言える概念です。しかし、現在のガイドラインを読み解くと、この「価値(Value)」の意味が著しく矮小化され、単なる「ハコモノ建設・維持管理費のコストカット手法」へと変質してしまっていることが分かります。事業を継続企業(Going Concern)によるサービス調達へと転換するためには、このVFMの概念そのものを根本から見直さなければなりません。
具体的にどのような課題があるのか、3つの観点から洗い出し、改善の方向性を整理します。
1. 現行のVFMガイドラインにおける3つの根本的課題
課題1:LCC(ライフサイクルコスト)の「積み上げ比較」というモノ調達の前提
現行ガイドラインでは、PSC(公共が自ら実施した場合のコスト)とPFI事業のLCCを比較する定量評価が中心です。しかし、この比較は「施設の設計・建設・維持管理等の各段階における経費の積み上げ」をベースとしており、行政が設計した施設モデルを前提とした“モノ調達”のアプローチです。
この手法には制度的な欠陥があります。
- 行政の設計能力を前提とするため、民間のイノベーションを評価する余地が制度的に存在しない
- 行政のPSCは予算制約下で維持管理が過小化されやすく、PSCが構造的に過小評価されるバイアスが生じる
- 本来のサービス調達で必要な「要求サービス水準に対する対価比較」ではなく、建設費・維持管理費というインプット比較に矮小化されている
結果として、PFIの本質である「サービスの質と持続性」を評価できない構造になっています。
課題2:「価値(Value)」の評価欠如と「コスト削減」への極端な偏重
VFMには「Value(価値)」が含まれているにもかかわらず、現行ガイドラインは実質的に「Cost Reduction(どれだけ安く作れるか)」の評価に終始しています。
この構造では、以下の問題が生じます。
- 民間がイノベーションにより「同じコストで質的向上」を実現しても、付加価値がVFMに反映されない
- コスト削減競争が激化し、ダンピングによる受注構造が固定化
- 結果として、公共サービスの質低下・維持管理の劣化を招く危険性が高い
本来のVFMは「支払いに対する価値」であり、質的向上・便益増加・イノベーション創出を含むべきですが、現行制度にはそれを評価できないという欠点があります。
課題3:リスク移転の価値が「局所的な請負リスク」に矮小化されていること
PFIの価値の重要な要素である「リスク移転」についても、現行ガイドラインは「工期遅延」「建設コスト超過」といったモノ調達の請負リスクに偏っています。
しかし、PFI事業の本質的なリスクは以下のような長期運営リスクです。
- 需要変動リスク
- 技術陳腐化リスク
- 物価変動リスク
- 長期運営リスク(Going Concern Risk)
これらは民間が継続企業として事業を運営する際に不可避のリスクですが、これまでのように行政が負担すれば財政の標準偏差を増大させる“財政リスク”そのものです。
現行ガイドラインはこれらの本質的リスクを評価ロジックに組み込んでいないため、これらのリスクをどのように官民で分担すべきかについても検討が行われていません。単なる請負契約レベルの局所的リスク移転をもってVFMを生み出したと錯覚しているに過ぎません。

2. 「サービス調達型」へ向けた改善の方向性
VFMに関するガイドラインを「ハコモノ割賦払い」を正当化するためのツールから、真の「サービス調達」を評価するツールへと進化させるためには、以下の方向性で抜本的な改定を行う必要があります。
1.「LCC積み上げ」から「ユニタリーペイメント(サービス対価)」比較への転換
インプット比較(建設費・維持管理費)を廃止し、行政が提示するリファレンスモデル(公共調達コスト)を基礎としたPSCと、民間が提案するUP(ユニタリーペイメント:一体的サービス対価)を比較する方式へ移行します。
PSCは以下の三層構造を必須とする。
- Base PSC(公共調達コスト)
- Risk-adjusted PSC(リスク移転価値)
- Competitive Neutrality(税制・資本コスト調整)
これはカナダのPPP Canada、オーストラリアのNational PPP Guidelinesと整合的な国際標準です。
2.「コスト削減」から「事業によって生じる付加価値の定量化」へのVFM再定義
VFMを「安く建てること」から、「質の高いサービスを持続的に提供する価値」へと再定義します。
評価に含めるべき付加価値は以下の通りです。
- サービス質向上による便益増加(WTP向上)
- 故障率低減による逸失便益削減
- イノベーション創出(住民満足度向上を含む)
- 地域経済への波及効果(GDP寄与)
これらを貨幣価値化し、VFM算定式に組み込むことで、過度な価格競争を防ぎ、民間の価値創出を正当に評価できるようになります。
さらに、Going Concernを前提とし、
- PSCには建て替え費用
- UPには行政が任意に事業を打ち切る場合の「のれん代(民間が蓄積した価値)」
を含め、残存価値を比較することが重要です。
3.「事業継続リスク(Going Concern Risk)」移転の適正評価
建設工事遅延リスクをサービス提供遅延リスクとして捉えるだけでなく、以下の長期運営リスクを民間と適切にシェアすることを評価します。
- 需要変動リスク
- 物価変動リスク
- 技術陳腐化リスク
- 長期運営リスク
これらのリスクシェアリングは、行政の財政支出の標準偏差を低減し、財政の安定化価値(リスクプレミアム低減)を生みだします。 実際にカナダやオーストラリアにおいて用いられている収入変動の標準偏差、CPI連動契約による民間収益安定化、技術更新CAPEXの民間負担などを基に算定するリスク移転価値を、VFMとして正当に評価するロジックをガイドラインに明記する必要があります。
VFMの定義が「安く建てること」である限り、民間事業者はコストカット競争に追い込まれ、PFIは本来の価値を発揮できません。 VFMを「質の高いサービスを持続的に提供する価値」へと再定義し、これを算定可能なルールとしてガイドラインに落とし込むことこそ、PFI制度改革の核心です。
この評価手法は、カナダ・オーストラリアの国際標準と整合的であり、日本のPFIを真のサービス調達型へと進化させるための重要なピースとなるはずです。
コメント